第9章 柱たちと年末年始✔
見つからなかったと涙を流す蜜璃をあやしながら小芭内が戻って来た後、暫くして杏寿郎も集合場所に姿を見せた。
「鎹鴉の知らせを聞いたから戻った」とだけ告げた杏寿郎は、振り返ればその後賑やかな声を余り上げていなかったように思う。
蛍の戻りを一番に喜びそうなものを、静かに足を向けていただけだ。
「なんだお前、おみくじの言葉を真に受けてんの? いい歳して」
「ぬ…別に気にしてはいない。持ち帰る為に握っていただけだ。懐に入らないだろうっ」
「あ、そ」
無理矢理の口実は否めないが、貼り付けたような強い笑顔を向けてくる杏寿郎には指摘したところで早々と切り上げられるだけだ。
その性格は十分に知っている。
先手を取られる前にと、天元は綺麗に畳み直したおみくじを大人しく返した。
「ま、こういうもんは都合良いことだけ真に受けてりゃいいんだよ。待ち人、来るも遅しとか」
「それのどこが都合良い言葉なんだ?」
「来るのが遅けりゃこっちから出向けばいいってこった。お前、待つなんて性分に合わねぇだろ?」
そもそも待つことに重きを置いていたら、この目の前の同胞は炎柱になどなってはいない。
前炎柱と一時同じ柱の身であった天元だからこそ知っていた事実。
煉獄杏寿郎という男は自ら踏み出し、力を示し、柱という階級を手に入れたのだ。
身近にいた前炎柱から一切の手解きを受けなくとも。
「自分で突き進んだから柱になったんじゃねぇの」
両手を頸の後ろで組んで言い残しながら、帰路に立つ皆の後を追う。
天元のその後を追うことなく、一人杏寿郎は佇んでいた。
見開いた双眸だけが同胞の背中を追い、誰にも聞こえることなく静かに呼吸を正す。
(…そうだったな)
周りの環境に合わせてただ絶望だけしていれば、この道は歩めなかった。
宇随天元という同胞とも、彩千代蛍という鬼とも出会っていなかっただろう。
今この胸に抱えた想いも、己の足で進んできたからこそ掴んだものだ。
綺麗に小さく畳まれたおみくじを懐に仕舞う。
1㎜のずれもないそれを視界の端に捉えて、筋骨隆々な容姿とは異なり随分と器用な男だと薄く笑う。