第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし
常にくっついていた三人娘が、お土産に夢中になっていたからか。その小さな手から離れた蛍は、アオイの傍にいた。
視線は合わない。
ただ蛍の手は、アオイの腕に抱かれた荷物を握っている。
「何?…蛍も何か欲しいものがあるの?」
ほとんど感情を見せなくなった蛍が、自ら触れ出ることは珍しい。
緊張気味に、それでも優しく呼びかけるアオイに蛍の手が握った荷物を引いた。
「この荷物がどうかした?って、あ。ちょっと」
軽い動作でも相手は鬼だ。
なんなく荷物を取り上げられて、蛍の片腕に収まる。
「どうしたの、蛍」
「……」
「あっ蛍っ」
そのまますたすたと歩き出す蛍を慌てて追う。
医療や介助用道具の買い出しは、それなりに少なくない。
なのに安定して片腕で荷物の風呂敷を抱く蛍は、流石鬼というべきか。
「問題ない。胡蝶の言付けを守っているだけだろう」
そこへ片手を出して制したのは、常に一歩距離を置いて見守っていた義勇だった。
荷物持ちくらいはできるだろうと、しのぶが告げていた数時間前のことを思い出す。
その言葉を聞いていたのかと驚くと同時に、アオイの胸の内側はじんわりと熱くなった。
聞こえていないことはない。
見えていないことはない。
蛍の世界の中に、自分達の存在は確かにあるのだと。
(そう、よね。きっと禰豆子さんのようなものだわ)
幼子のような禰豆子とは異なるところはあれど、会話でのコミュニケーションはできなくとも行動で示すところは通ずるものがある。
蛍は鬼なのだ。
自分には馴染みのない感覚なだけで、彼女が彼女であることには変わりない。
ただ以前の蛍が、あまりにも人間味溢れていただけで。