第9章 柱たちと年末年始✔
反応のない義勇に、見返す蛍の頸が傾く。
じっと闇のように深く黒い瞳で見られると、なんだか心がそわそわと騒ぐ。
口枷をしていては、場繋ぎに適当な会話を作ることもできない。
手持ち無沙汰に両手を握り合わせた後、不意に蛍はその手を差し出した。
「…ふ、」
「?」
「ふふ」
声での意思疎通はできないと見た小さな手が、ぎこちなくも義勇の手に触れる。
指先だけを握ってくる動作は手を繋ごうという意思だ。
紐を括る代わりにと蜜璃が提案した拘束方法。
それを律儀に守っている蛍の行動に、義勇は異論を唱えなかった。
ゆっくりと、その手を包むように握る。
「後は本部に戻るだけだ」
「?」
「だからもう失くし物はするなよ」
「ふ!」
こくりと大きく頷く蛍の手を引いて進み出す。
義勇の歩幅は、相手に合わせるようにゆっくりと。
「…見ないうちに変に距離を詰めたものだな…」
「やだ…凄いきゅんきゅんする…♡」
そんな二人の姿を見守っていた小芭内は眉を潜め、蜜璃は頬を赤らめ胸を鳴らす。
「……」
ただ一人、杏寿郎だけはいつもの見開いた双眸をそのままに微動だにしなかった。
笑顔は貼り付けたようなもので、口角は上がっているがそこから闊達な声は発さない。
静かに蛍と義勇の姿を見つめていた双眸が不意に下がり手元のおみくじを見る。
くしゃりと潰すようにして握り締めた。
「なんだぁ? お前も気に入らない結果だったのかよ」
「! 宇ず…っ!?」
ふ、と体に影がかかる。
成人男性である杏寿郎の背丈は日本人の平均身長よりも高い。
それを優に隠せてしまうのは、背後を取った元忍者が遥かに上回る背丈の持ち主だからだ。
気配の無さに驚き杏寿郎が振り返る直前、ひょいと手の中から奪った紙屑を天元が己の視線の高さに持ち上げる。
「なになに…願望、時至れば叶う。争事、焦らねば良し。商売、利あり損はなし。…握り締める程のものか? いい結果じゃねぇか」
「…返してくれないか」
「ん?」
ふとそこで目についたのは「恋愛、再出発せよ」の文字。
杏寿郎の想いがどこへ向いているのか確信せずとも知っていた天元だからこそ悟ることができた。