第9章 柱たちと年末年始✔
「?」
振り返る。
しかしそれらしい物はない。
頸を傾げる。
ちり、とまた、微かな音が転がる。
「ふ…?」
ようやくそれが自分の後頭部から鳴っていることに気付いた蛍の手が、そっと崩れかけた髪に触れた。
硬くて、しかし華奢な何かに手が触れる。
「同じ形状の物はなかった。それで我慢しろ」
細長い棒状の先に、丸い球硝子。
頭に差し込まれたそれが簪だと気付いた蛍は目を丸くした。
失くしたリボンの代わりだとでも言うのだろうか。
「流石に伝言板の代わりになる物はこの場では見つからなかった」
「…ふ…(もしかして…失くした物の代わりを探しに行ってくれてたの?)」
だから姿を消していたのかと、驚いた蛍の顔がまじまじと義勇を凝視する。
折角蜜璃が用意してくれた物を紛失したことに酷く落胆はした。
しかしそこに義勇が目を止めていてくれたなど露にも感じていなかった。
「? 気に入らなかったか」
「ふ、ふんふっ」
ふるふると慌てて頸を横に振る。
言葉は伝わらずとも、その否定は伝わった。
無表情ながら、ほんの僅かに義勇がほっとした息をつく。
「ふく」
「礼など要らない。甘露寺の髪飾りに比べたら、別に上質なものでもない」
深々と頭を下げる蛍に、義勇の応えは素っ気ない。
そんな態度を取られようとも、蛍の胸の辺りに広がる言い様のない感情は消えなかった。
蜜璃に、特別な思いを込めて晴れ着を選んでもらった時と同じだ。
胸の奥がきゅう、と詰まる。
「ふふ。ふくうふ」
何を言っているのか相変わらずわからない。
それでも蛍が見せたふやりと糸が解けるような笑みに、義勇は余所を向いていた目を止めた。
その笑顔は見覚えがある。
偶に杏寿郎や蜜璃に対して、蛍が向けていたものだ。
しかし自分には一度も向けられなかったもの。
それを初めて目の当たりにした。
「……」
つい口を噤んでしまう。
ただ目が逸らせない。