第9章 柱たちと年末年始✔
「雪が降り始めた。そろそろ本部に戻……なんだ?」
「なんだ?じゃねェよ! その会話は一度終わってんだよ阿呆がァ!」
「うむ、今度は冨岡が迷子かと思ってだな」
「迷子になったつもりはない」
「さては貴様おみくじを引かなかったな。甘露寺がわざわざ誘ってくれたというのに逃げ出したか」
「逃げ出してもいない。それなら引いた、吉だ」
「吉かよ。冴えねーな」
「可もなく不可もなく…か。それもまた強運の持ち主かもしれない…」
「と言うよりなんで一人で引いたんですか? そんなに皆と連れ合うのが嫌だったんですか? そんなだから嫌わ」
「俺は嫌われていない」
周りの総突っ込みを受けながら、変わらぬ無表情を貫き通す。
どこまでも彼らしさを崩さない義勇に、蛍もある意味感心した。
「どうでもいいから帰りませんか。いつまでも此処にいたんじゃ寒いし」
ふるりと体を震わせて催促する無一郎に、異論を唱える者はいない。
義勇への突っ込みもそこそこに皆が帰路へと足を向ける。
「あの甘酒…美味しかったな」
「あら、珍しいですね。時透君が興味を示すなんて。カナヲ達に余分に買ったのでお裾分けしましょうか」
「いいんですか?」
「ええ。この甘酒は米麹から出来ていますから。お酒の成分も入っていませんし」
「へえ…そうなんだ。知らなかった」
「よォ…悲鳴嶼さん。アンタは何を祈ったんだ、神様とやらに」
「祈りではなく誓いだ。そういう不死川は何を?」
「俺は信仰めいた考えは持ってねェんだ。誓いってのはなんだ、近況報告でもすんのか?」
「……」
「ンだよ」
「玄弥なら元気だ」
「っ! ん、なこと訊いてねェよ…!」
「そうか?」
帰り際も騒がしい柱達の後を、蛍もからりころりと下駄を鳴らしながら続く。
「彩千代」
呼び止めたのは義勇だった。
何かと足を止め振り返る蛍の頸に、手が伸びる。
「これはもう必要ないだろう」
ぐるぐると頸に回されていた男物の襟巻を外される。
露わになる口元に、結局童磨達鬼と鉢合わせしなかったことには蛍ほっと安堵で肩を下げた。
ちり
軽い鈴が鳴るような、そんな些細な音だった。
不意に拾ったのは。