第4章 柱《壱》
興味本位で、隣に座ったまま杏寿郎の炎のような模様が入った羽織を引っ張ってみる。
「わっしょい!」
わっしょいで返事をされた。
もう一度、二回程袖を引っ張ってみる。
「わっしょい? わっしょい!」
わっしょいで問いかけられた。凄い。
「ふぐ、」
「わっしょい!」
「何を見せられてんだ俺らは…」
「ふふふっ煉獄さんと蛍ちゃんは仲良しなのねっ」
杏寿郎が個性的なのは十分理解してるけど、更に珍妙な癖に思わず頬が緩む。
袖を引きながら、ぷすりと竹筒の隙間から息が漏れた。
「ふ、ふ」
ぷすりぷすりと、自分の口枷の隙間から漏れる空気もなんだか可笑しくて。
肩を震わせて、声ともならない小さな笑い声を漏らしてしまった。
「……」
「まぁ…っ」
「…へえ」
…?
あれ。杏寿郎の賑やかなわっしょいが聞こえない。
はたと動きを止める。
静かな空気に目を向ければ、目と目が合う。
というか三人の目がじっと私を見ていた。
え、見られて、た?
「蛍ちゃんが笑ったわ! 可愛いッ!」
「初めて見たな。彩千代少女が笑うところは」
「地味な奴だが、表情があれば多少はマシになるか」
三人三様。
でもしっかりと自分のお粗末な笑い声を聞かれていたことに、なんだか恥ずかしくなる。
竹筒を押さえて黙り込めば、ずいと身を寄せた蜜璃ちゃんが覗き込んできた。
「もう笑ってくれないの? 蛍ちゃんの普段の声が聞けないから、その笑い声もっと聞いていたいわっ」
「…ふぐ…」
「俺も見たいぞ! 彩千代少女!」
「ふ、ふぐ…」
「そういうのは強制するもんじゃねぇだろ。見ろよ、ビビってんだろ」
初めて忍者の言うことに賛同できた。
こくこくと頷いて【忍者にさんせい】と地面に書い
「誰が忍者だァ!」
「ふぶッ」
スパァン!
思いっきり頭を叩かれた。痛い。
「俺は"元"忍だ! 今は鬼殺隊の柱を生業としてるんだよ!」
「ふ、ふぐ…?」
そうなの?
…現役じゃないんだ…。
「……」
「なんでそんなあからさまに凹んでんだ」
だって本物の現役忍者だと思ってたから。
なんだ、違ったの…。