第9章 柱たちと年末年始✔
「……」
「…蛍ちゃん?」
握り締められた両手を、やんわりと握り返す。
この言い様のない感情を伝えられない代わりに、ただ目の前の体温を放すまいとした。
体だけではない。
心の奥まで温めてくれる彼女の色を。
じんわりと温かくなる心。
それとは反対に、冷たい何かがほろりと蛍の頬に触れた。
「!」
「わあっこれ、今年の初雪じゃないっ?」
見上げる蛍と蜜璃の目の前で、ほろりほろりと落ちてくる。
音もなく深々と舞う白い粉。
それは暗い夜空に浮かぶ、星屑のような雪だった。
「綺麗ねっ」
嬉しそうに粉雪に向けて両手を挙げる蜜璃の隣で、そっと蛍も見上げる。
音もなく頬に落ちた小さな雪の結晶が、瞬く間に蕩けて消える。
一瞬の儚い色と、その温度。
「…ふくふふ」
「え?」
舞う粉雪の中で、それらを見上げながらぽつりと口枷の隙間から零れた声。
それを明確に拾うことができた蜜璃だけが、蛍の言葉に目を丸くした。
「さむっ一段と冷えてきやがったな」
「皆参拝も済んだことだ…そろそろ戻るとしよう」
「それは問題ない…が、問題が一つ」
「なんですか? 伊黒さん」
「冨岡がいない」
「はァ? 鬼を縛ってた奴が迷子になるんじゃねェよ!」
幻想的な粉雪は何も目を奪うだけではなかった。
一段と冷え込む夜更けに、体を震わせた柱一同が帰還の姿勢を示す。
その中に、自己主張の少ない義勇の姿はない。
普段から空気に溶け込むような気配の持ち主だったからか、今の今まで皆気付いていなかった。
しかし彼は何処に行ったかと捜す間もなく、突然に義勇は皆の目の前に姿を現した。