第9章 柱たちと年末年始✔
そういえば、とようやくその事態に気付いた蜜璃が問えば、忽ち蛍の顔が青くなる。
途端に慌てて蜜璃に頭を下げた。
「あ、いいのよっ仕方ないもの、冨岡さんが人混みに揉まれたって言ってたし…っ」
「ふ、ふく…ふ、ふ…」
「え?…リボンも無くしちゃったの?」
「っ!」
「あ! そ、そんなに頭下げないで…っ」
更にぺこぺこと蛍の頭が下がる。
下げたくもなると言うものだ。
「それにほら! 頭のリボンがなくなっても、こっちに残ってるからっ」
宥めるように、それでも嬉しそうに自身の袖を広げて見せてくる蜜璃に、蛍も改めて自分の晴れ着を見下ろした。
熨斗目模様の着物。
熨斗目とは、祝いの引き出物などに使われる鮑(あわび)を熨(の)して乾燥させた、熨斗を束ねた模様のこと。
花や蝶、縞や格子など、様々な柄を束ね合わせた模様が肩から胸元、袖などに横段に流れるようにして刻まれている。
沢山の色鮮やかな色で結ばれた、それは大きなリボンのように。
「蛍ちゃん知ってる? 熨斗目模様の意味」
「?」
ふるふると頸を横に振る蛍に、そっと蜜璃の顔が近付く。
こそりと内緒話をするようにして泣き黒子の瞳は優しく微笑んだ。
「熨斗が何本も束ねられているでしょ? これって、多くの人から祝福を受けますようにって。そういう意味があるの」
「…ふ…?」
「人と人との絆や繋がりも表してるの。幸せを引き寄せて、その幸せを周りと分かち合えるようにって」
そっと蜜璃の両手が蛍の両手を握り込む。
「蛍ちゃんにも、そんな幸せが舞い込めばいいなぁって。今年はそんな年になればいいなぁって。鬼としてじゃなく彩千代蛍ちゃんとして、鬼殺隊でもそんな幸せを見つけられたらいいなぁって。そういう意味を込めて、この着物を選んだの」
照れた様子で伝えてくる蜜璃の姿に、蛍は言葉を呑み込んだ。
否、何も出なかったという方が正しい。
口枷で言葉を伝えることは封じられていたが、それでも声の一つも出なかった。
ただ、目の前の彼女から伝わる、言い様のない感情を抱えて。
胸の奥が詰まる。
目頭がつんとする。