第9章 柱たちと年末年始✔
鬼一人と柱全員参加で挑んだ人生双六。
そこで見事優勝したのはしのぶであり、見事敗者となったのは行冥だった。
腕相撲の順位が物の見事に逆転したような結果だ。
故にしのぶの命令であれば行冥は何事にも従う。
「気持ちいいものですね。こういうのも案外」
余程優勝できたのが嬉しかったのだろう。
ほくほくと笑うしのぶの笑顔は楽しそうだ。
(た、高い…!)
行冥からすればただの担ぎ上げだが2mを裕に超える身長を持つ男に持ち上げられれば、普段は見えない景色が見える。
思わずしがみ付くようにして行冥の腕に手を回す蛍に、じっと光のない両目が向く。
「……」
「…ふ?(な、何…)」
「…哀れな…」
「ふく!?(ええ!?)」
じっと見ていた間近にある白い両目から、ぽろりと涙が零れ落ちる。
涙腺が弱いなんて話ではない程の唐突な行冥の泣きに蛍はぎょっと目を剥いた。
(え、今泣く要素あった? 何に泣いたの?)
「矮小な体で…震えることしかできないとは…」
(そんな理由っ? というか震えてるのは寒さだからっ)
ぽろぽろと次から次に溢れ落ちていく涙。
泣かれる理由もそうだが、その涙も欲しい訳ではない。
「ふく!」
ぺちりと、蛍の手が行冥の頬に当たる。
かと思えば、ごしごしと着物の袖でその涙を拭った。
「何を…?」
「ふんふふ! ふくふふ!」
「…?」
「あー全くさっぱりだな。甘露寺、通訳頼むわ」
「えっとね…"男の涙はいざって時に出すものだから簡単に流したら駄目!"ですって」
「どういう説教だァそりゃあ」
「そういうのって普通女の人に向けるものなんじゃないかな…」
「ふくうふ! ふくふ!」
「"涙を向ける相手は選ぶこと。鬼に向けるなんて勿体無い!"って」
「自分で言うか、それを」
「ふんふれふ!」
「"それから同情は要らん!"って」
「あ。出ましたね本音」
ふんす、と口枷から息を漏らし涙を拭う。
蛍のその表情は行冥には見えない。
しかし声や匂いや体温。代わりに伝わってくる気配に、鬼独特の殺気めいたものはない。
「同情は…嫌いか…」
「ふ!」
「しかし…それを失くせば、私に残るのは怒りだけだ」
「…?」