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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第9章 柱たちと年末年始✔



「ならば後は上がるだけ。これより悪い日はない。そう思えばいい」

「ふく…(成程…)」


 行冥の言葉には素直に頷けた。
 初めてと言ってもいい程、行冥ともまともに言葉を交した。
 それも蛍にとっては悪いことではない。


(考えてることは、よくわからないけど…悪い人じゃ、ないのかも)


 同情であったとしても純粋な涙を流せる男だ。


「…ふん、ふふ」

「?…南無」

「ふ、んふふ」

「…?」


 意を決して、踏み出す為にと意思疎通を取ってみるものの、口枷をしていては伝わるものも伝わらない。
 頸を傾げる行冥の前で、蛍は黒板のない胸元に手を当てた。


「それなら私が訳してあげますよ」


 そこに一歩踏み出したのは誰にとっても意外な人物。
 穏やかな笑みを浮かべた胡蝶しのぶだった。


「悲鳴嶼さんの体は逞しくて素敵です、と」

「おい胡蝶。本当に蛍がそんなこと言ってんのか?」

「ぜひその力を今一度見せて欲しいです、と」

「おい胡蝶」

「どうですか? 見せてあげたら」

「おいって」


 どう見ても悪ふさげしているようにしか見えないしのぶに、天元が突っ込むも軽やかに受け流す。
 にこりと笑顔で人差し指を立てて。


「命令です、悲鳴嶼さん♪」

「御意」


 そう彼女が告げれば、行冥は返事一つで頷いた。


「失礼する」

「うくっ?」


 丸太のように太い腕が、軽々と蛍の膝裏に入ったかと思えばひょいと担ぎ上げる。
 腕に座るような形で簡単に抱き上げられて、ぐんと目線の位置が高くなり蛍は狼狽えた。


「わあ! 悲鳴嶼さん力持ち! 良かったわね蛍ちゃんっ」

「良かったのか…? あれは…」

「む…蛍少女の顔色が忙しないな…」


 いいなぁと喜んでいるのは蜜璃だけで、小芭内も杏寿郎も一律に難しい顔。


「おっまえ…悲鳴嶼さんをこき使い過ぎだろ」

「あら。だって私が人生の成功者ですから。勝った者は負けた者を一日使い走りにできると言ったのは宇髄さんですよね?」


 そう笑顔で言い切るしのぶに、流石の天元も何も返せなかった。

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