第9章 柱たちと年末年始✔
「見ろよ、やっぱり心配する必要なんてなかっただろ。どうだ、蛍と冨岡も一杯!」
「冷えた体に染みますねぇ」
「甘酒なら飲むんだな…胡蝶も」
「甘ったりィんだよ」
「…俺はこれ、好きかも」
雑談混じりに騒ぐ彼らが手にしているのは、広場で振る舞われていた甘酒。
器を掲げて誘う天元を筆頭に、実弥も行冥もしのぶや無一郎までも舌鼓を打っている。
「この寒い中、待機していれば体も冷えるだろう」
「そうだわ。冨岡さんもどお? この甘酒とっても美味しいの!」
「甘露寺の勧めだ。飲め」
元々大食漢な男さえも超える胃袋を持つ蜜璃は、その甘い誘惑に耐え切れなかったようだ。
片手に握られていた甘酒が何よりの証拠。
義勇が寄越した蛍の安否の伝言が皆の気を緩ませたのか。
それでも差し出された甘酒を無言で見る義勇の手を、蛍が軽く引く。
「ふ、」
何を言っているのかはわからない。
しかし不思議と催促されている気になった。
蛍は、義勇が楽しめたらと言っていた。
神聖なる地で柱達と新年を迎えていることが、果たして楽しいのかと訊かれれば答えはわからない。
それでも確かに感じられていることもある。
この繋いだ小さな手の温もりだ。
眉間の力を抜く。
差し出された甘酒を大人しく受け取る義勇に、蜜璃の顔が嬉しそうに綻んだ。
「…些か身形が崩れているようだが、どうした?」
「戻る際に人混みに揉まれただけだ」
そこへ唯一甘酒に手をつけていなかった杏寿郎が、蛍の崩れた髪型や帯に目を止め声をかけた。
どう応えるべきかと蛍が迷う前に、義勇が当たり障りなく躱(かわ)す。
「そうか」
すんなりと飲み込んだ杏寿郎だったが、その強い双眸がじっと視線を落としている先は繋がれた二人の手。
「あのね冨岡さん! 今からあっちで皆でおみくじを引くの! 冨岡さんも一緒にどお?」
「…別に俺は」
「ふくふふっ」
「まぁ! 蛍ちゃんが"したい"ですって!」
「ふふ!」
「"皆で"ですって! そうよね、皆でやるから楽しいのよねっ」
そこへ可憐な明るい蜜璃の声が飛んできたかと思えば、忽ちに空気を変える。