第9章 柱たちと年末年始✔
(嘘っリボン失くした…!?)
慌てて後頭部に触れた蛍の手に、リボンの滑らかな感触はない。
義勇の言う通り頭を飾っていたリボンも落としてしまっていた。
「ふく…(蜜璃ちゃんのリボン…)」
思わず項垂れる。
あんなにもキラキラした笑顔でお揃いだと喜んでいた、蜜璃の私物であろうリボン。
それを失くしてしまったのだから凹みもする。
「状況が状況だ。甘露寺も怒りはしないだろう」
「……」
凹んでいるのはそこではないが、義勇なりのフォローだ。
項垂れたまま蛍は力無く頷いた。
それでも地面へと向けられたままの蛍の視界に、すっと入り込む義勇の手。
「?」
「皆の所へ戻るぞ」
顔を上げて、顔と手を交互に見る。
いまいち理解していない蛍の様子に、痺れを切らした義勇は土の付いたままの手を握った。
「ふ…?」
「紐に繋がれたくなかったら、離すな」
蛍が思い出したのは、蜜璃が拘束の代わりに取っていた行動だった。
それを義勇も実践しているのか。
初めて感じるその手の感触に戸惑いつつも、すたすたと歩み始める義勇の後を慌てて追う。
しかしその足が神殿の表へと向かうと、蛍は焦りを覚えた。
童磨がもしまだ近くにいたら。
義勇程の手練であれば、童磨を見て一目で鬼と見抜くだろう。
「ふ、ふく…っ」
人の賑やかな神社前へ出ようとした義勇の足が止まる。
止めたのは、踏ん張るようにして急ブレーキをかけた蛍だった。
しっかりと義勇の手は握ったまま。その目は不安そうに人混みを忙しなく見回している。
人混みが気になるのかと、訝しげに蛍を観察していた義勇だったが、ふと思い付くとくるりと向き直った。
ぱんぱんと汚れの付いた蛍の着物を叩いて、徐に土埃を落とし始める。
「ふ…?」
「言う程酷い格好じゃない。気にするな」
「ふぐ…(そういうことじゃ…)」
かと思えば、肩にゆたりと巻いていた自身の襟巻を外し、蛍へと巻き付ける。
「ぅっ?」
「大人しくしていろ」
男物の襟巻では、蛍の顔を半ば隠すように口元まで覆ってしまった。