第9章 柱たちと年末年始✔
人のざわめきは、遠く。
人気のない神殿の裏側。
木造で出来た縁の下。
地面と神社の土台である亀腹(かめばら)の隙間に、蛍は体を丸めて潜り込んでいた。
折り曲げた膝を抱いて息を潜める。
(見つかりません、ように)
目を瞑れば、間近で見た鮮やかな童磨の虹色の瞳を思い出す。
下手に動き回れば、また見つかってしまうかもしれない。
またあの瞳に因われ誘われれば、ついて行かない保証はなかった。
初めて無条件で自分を受け入れてくれた。
初めて今の自分を肯定してくれた。
それは蛍にとって甘美な誘いだった。
しかし彼らは当然のように人間を喰うのだ。
「っ…(私だって、同じ癖に)」
彼らだけではない。蛍自身も知っている感覚だった。
だからこそ共有できてしまうことにぞっとした。
脳裏から追い出すように頭を振る。
更にぎゅっと、強く瞳を閉じた。
ザッ
人の足音を聞いたのは、その時だ。
迷い無くこちらに向かってくる音に、びくりと顔が上がる。
夜の縁下は真っ暗で、意図的に覗き込まないと見つからないはずだ。
息を潜める。
口枷から漏れる空気の音が届かないようにと上から押さえ付けた。
(大丈夫。きっと、見つからない)
息を殺す。
気配を静める方法は杏寿郎から習った。
付け焼き刃だとしても、天元との実践で使える程には成長している。
だからこそ見つかるはずはない。
どこか乞うように言い聞かせる。
やがて足音は近くで止まった。
タタタッ
行灯も何もない。
月明かりだけが照らす外から、小さな影が一つ縁下に入ってくる。
「チュウッ」
ぴょこんと後ろ足で立ち、片手を挙げるは見覚えのあるシルエット。
「ふ…ッ」
蛍と童磨の間に割り込んできた、あの忍鼠だった。
あの後どうにか人混みを抜けて人気のない此処へ逃げ込んだ蛍の懐から、気付けば消えていた。
それがまた戻ってきたのか。
思わず身を乗り出す蛍に、更に一つ。
今度は大きな影が縁下へと覗き込んだ。
(──あ)
目が合う。
黒い眼に蛍の姿を映して、その男──義勇は、安堵の息をついた。
「見つけた」