第9章 柱たちと年末年始✔
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「冨岡、いたか」
「いや。見つからない」
「わぁあごめんなさい! 私が蛍ちゃんの手を離しちゃったから…!」
「甘露寺さんは悪くありませんよ。参拝時なら、誰だって手を離していましたから」
「そうだ。隣にいた俺も目を離したのが悪い。甘露寺だけの所為じゃない」
「しのぶひゃん…伊黒ひゃん…ぐすっ」
涙混じりの蜜璃を宥めるしのぶと小芭内から少し離れた場所で、義勇はじっと空を見上げていた。
暗い夜空では、ゆっくりと旋回する愛鳥が辛うじて見て取れる。
しかし夜目が利く鎹鴉であっても、これだけの大人数の中から一人の鬼を見つけ出すことは難しかったようだ。
降下することなく再び辺りを捜索し始める姿に、義勇は静かに溜息をついた。
「そう派手に慌てなくても心配ないだろ。神社の敷地内を出た形跡はないって、俺の鼠達が言ってるしな。大体、逃げ出そうと思えば今までにもいくらだって逃げ出せたはずだ」
「確かに蛍少女を疑う気はないが…それでもこれだけの人が集まる場所に彼女を一人置いておくのは心配だ。やはり早急に見つけ出さねば」
杏寿郎のように心配している者もいれば、天元のように飄々と構えている者もいる。
確かに逃げ出そうと思えばいくらでも蛍には逃げ出す機会があった。
それでも一度もそんな素振りを見せることなく鬼殺隊に因われていた彼女を、それなりに信用している結果だ。
「……」
「冨岡ァ。何処に行くつもりだ」
「もう一度、神社周辺を捜してくる」
無言で再び人混みに向かう義勇を、実弥が呼び止める。
振り返ることなく、今一度蛍を見失った場所へと足を進めた。
「ならば俺も東側の鳥居付近を捜して来よう!」
「あっおい待て煉獄!…って聞いちゃいねぇ…」
「わっ私も捜してきまひゅ…!」
「待て甘露寺っその顔で歩き回ると変な──…俺も行く」
「あ。甘露寺さんと伊黒さんも行っちゃいましたよ」
「おーおー…どいつもこいつも」
呆れた天元の溜息を背中に感じながら、振り返ることなく進む。
義勇自身、蛍が逃げ出すという不安は持っていなかった。
しかし万が一ということもある。
また、それとは別の理由で逸れてしまっていたのだとしたら。