第9章 柱たちと年末年始✔
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「…あれえ…」
突然目の前から姿を消した蛍に、童磨は拍子抜けした表情のまま後を追うことはなかった。
伸ばした手は空(くう)を切り、何も掴めていない。
「参ったなあ…俺は探知探索が不得意だし…」
伸ばしたままの手を引っ込めて、ぽりぽりと頭を掻く。
目の前には餌となる人間の群しか見えない。
妓夫太郎には暴れるなと言われた。
可愛い弟分のような彼の願いなら、叶えてやりたい。
「まあ、仕方ないか」
あっさりと頷くと、童磨は一人その場で綺麗な笑顔を浮かべた。
多少後ろ髪引かれる思いはあれど、そこに強い執着心はない。
蛍に不思議な匂いを感じたが、腹の呻りと共に童磨にとっては理由のつかないことだった。
意味のわからないことを延々と考えても仕方ない。
それよりも空腹感を満たす方が先だ。
この場で餌は探せないとなると、場所を変えて若い女でも喰らいに行くとしよう。
ただ。
「またね、蛍ちゃん」
願わくば、彼女がこの世で生き永らえるように。
(また、逢えるといいなあ)