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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第9章 柱たちと年末年始✔



「それに女は腹の中で赤ん坊を育てられるくらい、高い栄養と生命力を持っている。だから女を沢山喰べた方がより強い鬼になれるんだぜ」


 人間の女と言われて私の頭に浮かんだ顔。
 それは鬼になってから身近に見ていた、数少ない人間の女性だった。

 蜜璃ちゃん。
 胡蝶。
 神崎アオイ。
 菊池さん。
 産屋敷あまねさん。
 宇髄家の三人の奥さん達。

 それから私の心の奥底にこびり付いて離れない──死ぬ間際の、姉さんの顔。

 私は、知っている。
 女の肉の、柔らかさを。
 女の血の、美味しさを。

 だけどそれ以上に、焼き付いて離れないのは。


「……」


 ざわ、と肌の上の空気が震えた。

 憤怒や軽蔑や恐怖や萎縮や、色んな感情はあったけど、どれもそれにはしっかり当て嵌まらなくて。
 ただ目の前の男から目を反らせなかった。目を、逸らしたくなかった。


「…へえ」


 じっと私を見てくる両の瞳が、微かに色を変える。


「ねえ、蛍ちゃん。良い考えを思い付いたんだけど」


 再び両手を徐に胸の前で握られた。
 今度は簡単に抜け出せないくらい、しっかりと。


「鬼になったばかりなら俺が色々教えてあげよう。あの妓夫太郎と堕姫を世話したのも俺なんだ。ご飯の摂り方から、他の鬼との関わり方まで。温かくて安全に過ごせる部屋も用意してあげる」


 黒い眼の奥の煌きが濃くなる。
 虹のような鮮やかな光の反射がきらきら、きらきらと。
 黒眼の合間に輝いて。


「だから、君の命を俺にくれないかな」


 そう、目の前の男は優しく嗤(わら)った。

 ……待って。
 命、って言った?


「死んで欲しい訳じゃないよ。君の体が欲しいんだ。傍に置いていたら腹の鳴る理由もわかるかもしれないし」


 物理的な意味じゃないと思う。
 現に童磨から腹の鳴る音は聞こえない。
 でも要求は、凄く物理的だ。
 私の体を傍に置いて何を見たいんだろう。


「…ふ、」


 さっきみたいに、掴まれた手はそう簡単に抜け出せなかった。
 だから代わりに頸を横に振って否定を伝える。

 自分以外の鬼は気になるけど、教えて貰うなら…童磨以外が、いいかも。
 なんとなくだけど、童磨からは嫌な予感がする。
 初対面でこんなこと失礼だけど…。

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