第9章 柱たちと年末年始✔
でも悪いけど童磨のその予想は外れてる。
義勇さんは、そんな理由でこの口枷を私にさせた訳じゃない。
鬼の牙から人々を守る為だ。
それはきっと人間にしかわからない感覚なんだろう。
鬼である童磨や私には、納得できても同じ理解はできないものだ。
「俺も、俺の為だけに鳴いてくれる声が欲しいなあ。そういう特別感?って言うのかな。嬉しくなるよね」
「……」
「でも俺だったらもう少し別のやり方がいいかな」
鋭い爪を持つ指先が、そっと口枷の端を摘む。
とてもそんな圧がある動作には見えないのに、ミシリと竹筒が小さく軋んだ。
「これを壊してしまえば意味がないんだから。俺だったら、その可愛い唇を縫い付けて一時足りとも開けないようにするのに」
「…っ」
「ああ、大丈夫だよ。だって君は鬼だから。どんなに強く縫い付けても、外せばまた元通りに治るだろう?」
優しい声なのに、伝わってくる内容はまるで優しくない。
そのちぐはぐな空気と音色に、ぞわぞわと鳥肌が立っていく。
この鬼は…なんだか、変だ。
おっかな柱の不死川実弥と正反対な感じで似ている。
あの外見と性格には似ても似つかない、優しい色を纏っていたのとは真逆に。
だけど童磨から伝わる奇妙な感覚は、いまいちまだわからない。
…なんだろう。鬼だって、見える色はそれぞれで、特に人間と違うような感じはしないのに。
さっきの妓夫太郎と堕姫はそうだった。
でも童磨は。
「そっか…そうだよね。鬼なんだから何をしても元に戻るんだ。すぐ壊れてしまう人間とは違う。…そうだった」
自分で自分の言ったことに感心した様子で、何度もうんうんと頷いている。
なんだか奇妙な光景だ。
「いやあ。手を出すのは人間の女ばかりで、すっかり見落としていたよ。そうだ、そうだった」
だけど一つだけはっきりしていることがある。
それは奇妙さの中に残る異物のようなもの。
大体、手を出すって。
どういう意味?
「ああ、蛍ちゃんはまだ知らないのかな?」
その問いが目で伝わったのか、私の心を読み取るように童磨は応えた。
「男と女。喰べるなら断然女だ。女の肉は柔らかくて美味い。男は淡白過ぎるからなあ」
喰べるって…人間の女性を?
じゃあ童磨は女性ばかり喰べてきたってこと?