第9章 柱たちと年末年始✔
「ああ、別に尋問してる訳じゃないんだぜ。ただ知りたいだけなんだ」
はたと気付いたように、手首を離した童磨が顔の前で両手を振る。
その姿は下手な芝居をしているようには見えない。
だけど何故か背筋の寒さは消えなかった。
「ああ! それにもう一つ気になったことが」
ぽんと手を打った童磨の顔が徐に近付く。
首筋を覗き込むようにして、すんと匂いを嗅がれた。
「君、凄く人間臭いんだ。でも人間の血の匂いはしない。なんでかなあ」
それは…きっと、共に過ごしてきた義勇さん達の匂いだ。
でも鬼と人間の匂いの違いなんてわかるものなの?
血の匂いならまだしも…童磨の嗅覚が優れているから?
「余りに濃い匂いだから、人間と間違えて喰べてしまいそうになるよ」
「っ…」
童磨が話すと首筋に生暖かい息が掛かる。
まるで急所を握られているようで、ひゅっと喉の奥の呼吸が細まった。
この感覚は知っている。
捕食者に狙われた時の、あの感覚だ。
口枷の内側で息を殺す。
それでも零れた音が、竹筒の隙間からひゅくりと漏れ落ちた。
「…嗚呼、駄目だよ。そんな顔をしたら」
頬に温かい手が触れる。
先の鋭く尖った爪は、紛れもなく鬼の手だ。
「なんだろう。腹の奥が呻る感じだ。ぐるぐるぐるぐる。お腹の空く音かなあ」
顔を離して、覗き込むようにして笑い掛けてくる。
優しい手つきで頬に触れたまま。
だけど雑魚寝した炬燵の中で義勇さんに頬を触れられた時とは、まるで違う感覚だった。
理由は、わからないけど。
触れた箇所から冷たい何かが広がっていくような。
そんな錯覚に陥る。
「もっと見たいかもしれないな…蛍ちゃんのそんな顔」
そんな顔って、どんな顔。
自分がどんな顔をしているかわからないけど、笑顔でないことだけは確かだ。
「その口枷は自分で付けたのかい? それとも誰かに付けられたのかな?」
頬を撫でていた手が、滑るようにして口枷に触れる。
「いいなあ、それ。体の一部を縛り込んで抑え込むなんて。余程その口枷をさせた相手は、蛍ちゃんの声を他人に聞かせたくなかったんだろう」
何も言っていないのに。
私の意志でしている訳ではないことを、手に取るように見透かされる。