第9章 柱たちと年末年始✔
「余り此処に長居しても人目を集めるかな。妓夫太郎にも暴れるなと言われたし…どうだろう、蛍ちゃん。俺と落ち着いた所で食事でも」
背中に添えられていた手が離れる。
笑顔で誘われた言葉に一瞬凍り付いた。
食事って、人を喰べようってこと?
それは、できない。
人を喰らうなんて。
頸を横に振れば、残念そうに童磨の肩が下がる。
「お腹は空いていないのかい? 胸に受けた怪我は?」
「ふく」
「そっかぁ…それは残念だ」
幸い骨は折れてないみたいだし。
瞬時に胸筋に力を入れていたお陰だ。
呼吸だけじゃなく、瞬時の対応は杏寿郎や天元との対戦で鍛えられた。
特に、あのおっかな柱の相手で。
鬼のことは知りたいけど、人を殺す場面を黙って見てはいられない。
童磨を止める権利は私にはないけど…ついては、行けない。
訊きたいことはまだまだあったけど、一旦童磨から離れることにした。
もし此処で義勇さん達と鉢合わせてしまえば最悪戦闘になる。
こんなに一般人が多い場所で、そんなことさせられない。
ぺこりと頭を下げて、自分は此処でと意思表示をした。
「うん? まだ話は終わっていないよ」
だけど、くんっと体は軽い力に引っ張られた。
見れば手首を掴まれている。
「そんなに急がなくても、ちゃんと帰してあげるから。それより気になったことがあって」
気になったこと?
「妓夫太郎の言う通りなら、蛍ちゃんは鬼になったばかりの娘だ。餌場や縄張りのことも知らなかったようだし」
本音は、違うけど。
わざわざ違うと否定する方が後々面倒臭そうだから黙っておいた。
「なのに俺の手から抜け出る仕草や堕姫の突きを喰らった受け身は、つい先日まで人間だった者の動きじゃあない」
それが裏目に出た。
「なんでかなあ?」
「…っ」
にこにこと穏やかな笑みを称えて問い掛けてくる。
なのに何故か背筋が凍るような思いだった。
異様な容姿でもそこまでの圧は感じなかったはずなのに。
今では妓夫太郎とは比較にならない。
足が竦むどころじゃない。
足裏がぴたりと地面に凍り付いたように、離れなくなってしまう。