第9章 柱たちと年末年始✔
「あんたには恩があるが、此処では暴れてくれるなよなぁ。オレぁ妹と初詣に来たんだ」
小さな声だったのに、鬼の耳である私には拾えた。
きっと、声を掛けられた童磨という鬼も。
その後はもう人混みのざわめきしか聞こえなかった。
あんなに存在感の強い二人組なのに、消えるのは一瞬で跡形もない。
最初から此処にそんな鬼はいなかったかのように。
二人…二鬼って言った方がいいのかな…とりあえず妓夫太郎と堕姫が消えると少しだけその場の空気が軽くなった気がした。
無意識に感じていた圧は、あの二鬼のものだったのかな…鬼って誰もがあんな圧を持っているんだろうか。
「うーん。いつもながら仲睦まじい兄妹愛だ。素晴らしいと思わないかい?」
それは否定しないけど…。
その場に残されたのは私と童磨だけ。
額の上で掌をかざして妓夫太郎達が消えた方向を見つめる姿は飄々としている。
そこに足が竦むような圧は感じない。
「俺がいつも妓夫太郎に声を掛けるから、堕姫もヤキモチを焼いて突っ掛かってきてね。その度にああして妓夫太郎があやすんだけど、そんな二人が可愛くて可愛くて。つい構ってしまうんだよなあ」
あ、二人って呼んだ。
じゃあその呼び名でいいのかな。
私も二鬼って呼ぶのなんか抵抗あるし……ってちょっと待って。
なんだろう…なんか堕姫の毛嫌いする理由がわかったような気がする。
童磨って性格が少しばかりひん曲がってそう…。
にしても妓夫太郎は、童磨に恩があるって言ってた。
殺伐とした助言を貰ったけど、やっぱり鬼の中にも感情論は存在するんだ。
…皆が言うただの化け物ではないのかもしれない。
この場で狩りをすることも、結果的にやんわりと止められた。
それはきっと自分自身じゃなく妹の為だ。
妓夫太郎と堕妹は本当の兄妹なのかな…それとも鬼になってから兄妹の契を交した?
どちらにしても二人の間には確かな絆が見えた。
堕姫はわかり易いくらいにお兄ちゃんを溺愛していたけど、あの妓夫太郎も向ける視線や撫でる掌なんかがそうだった。
鬼であっても…ああして互いを思い合えるんだ…。