第9章 柱たちと年末年始✔
「危ないなぁ」
支えてくれていたのは童磨だ。
衝撃は結構な力だった。
だって押された胸元がズキズキと痛い。
頸から下げていた黒板は、その一突きで粉々に砕けてしまった。
なのに簡単に片手一つで相殺するところ、この童磨という鬼も強いのかもしれない。
そして衝撃を与えてきた彼女も。
「なに気安く触ってんのよ! お兄ちゃんはアタシのお兄ちゃんなのよ!!」
シミ一つない綺麗な額に青筋を立てて、紅を引いた口元からは剥き出しの牙が覗いている。
す、凄い…兄愛が凄い。
まるで蜜璃ちゃんへの愛が強い伊黒先生を見ているような気分だ。
「次妙な真似したら、その体ズタズタに切り裂くわよッ」
「まぁ待て、落ち着けぇ。此処で暴れたら初詣も何もねぇだろぉ」
「…っ」
怒る堕姫の頭を撫でながら、妓夫太郎が制止に入ってくる。
「オレぁ妹以外の鬼に興味ねぇんだよ。何処でどう野垂れ死のうが気にしねぇ」
その言葉通り、手は優しく妹をあやしているけど、私に向ける暗い目に優しさは見えない。
「だが先に手を出したのはこいつだからなぁ。助言だけはくれてやる」
助言?
「新米なら覚えてろ。鬼はそれぞれに餌場や縄張りがある。此処はオレらの餌場じゃねぇけどなぁ…弱ぇ奴が好きにフラフラ邪魔立てしたら殺されるぞぉ」
殺される?…喰われるってこと?
じゃあ此処にも縄張りとしている鬼がいるの?
鬼が共食いするなんて話は義勇さんから聞いたことがない。
だから勝手にしないものだと思っていた。
だって鬼同士の殺し合いは不毛だって…日光以外では死ねないんだから。
妓夫太郎達の餌場じゃないなら童磨のものなのか。
視線で問いかけたら、にこりと綺麗な笑顔を返されただけだった。
その真意はわからない。
「奪われる前に取り立てろ。踏み付けられたくなけりゃ強くなれ。鬼の世界も人間と同じだ」
「お兄ちゃんっそんな奴にそんなこと…ッ」
「ああ、もう行く。心配すんなぁ」
堕姫の手を取って今度こそ人混みへと消えていく。
刹那に振り返った妓夫太郎の目は、私じゃなく──その後方を見ていた。