第9章 柱たちと年末年始✔
「そうなんだ…可哀想に。ご飯は? ちゃんと喰べられているのかい? ひもじい思いは?」
優しげな太い眉が下がる。
心底同情するように私の身を心配してくる。
ご飯って…鬼で言えばそれは人間に当たるはずだ。
人間を喰べられるなんて言えないから、大丈夫と伝えるのも躊躇してしまう。
それが問いへの肯定と伝わったのか、徐に両手を握り締められた。
「やあやあ、それは哀しいことだ! しっかり喰べないと強い鬼にはなれないよ」
人間を喰べることで鬼が強くなるのはどうやら本当らしい。
じゃあ妓夫太郎から感じた足が竦むような強さは、それだけ人間を喰べたからってこと?
「お兄ちゃん、もう行きましょ。あんなの放って」
「ああ…ただなぁ、あの蛍って奴…オレ達のことも知らねぇから新米じゃねぇのかぁ?」
「だから何? 人間も狩れないようじゃこの先生きていけないわよ」
知らないって…この鬼達は世間で知れ渡ってる存在だってこと?
わからないことだらけで不安もあるけど同時に興味も向く。
彼らは私と同じ鬼という存在。
私が知らなきゃいけないことだから。
知りたい。
周りから聞かされるだけの情報じゃなくて、私自身の眼で彼らを見てみたい。
「…ふっ」
からりと下駄が鳴る。
気付けば踏み出していた。
「…あ?」
堕姫に急かされるまま、人混みに消えようとした妓夫太郎。
その着物の袖を気付けば握っていた。
「おや?」
握られていた童磨の手からはするりと抜けて。
その様に童磨はきょとんと頸を傾げている。
ご、ごめんなさい。
「なんだぁ。オレに何かあんのか?」
「ふ…ふく」
いや、特には…。
でも、その、もうちょっと話していたいかなって…。
どうにかそのことを手振り身振りで伝えようとするも妓夫太郎は頸を傾げるばかり。
うう、どうしよう。
黒板を使っても文字が読めないんじゃ伝えられないし…そうだ。童磨って鬼に伝えて貰えれば──
ドンッ!
衝撃は予告もなくきた。
胸元に強い振動が走ったかと思えばガシャンと何かが割れるような音を拾う。
「っ!?」
「おっと」
胸への衝撃に体が真後ろに吹き飛ぶ。
だけど宙を飛んだのは一瞬で、ふわりと背中に添えられた手が力を相殺してくれた。