第9章 柱たちと年末年始✔
同胞と呼ぶ鬼達だけど、そこには上下関係と言うより感情による関係があるようだった。
明らかに堕姫はこの優男のような鬼を毛嫌いしているし、妓夫太郎も仲良くしてはいないみたいだ。
「初詣なんて一度も赴いたことがなかったからね。いやあ、面白いものだなぁ。天国も地獄もないと言うのに、こんなにも崇拝する者達がいるなんて。人の多さに酔いそうだ」
「なら帰りなさいよ」
「帰ればいいじゃねぇかぁ」
「息ぴったりだねぇ相変わらず」
雑談している様は、化け物と恐れられる存在には見えない。
なんとなく見守っていると、穏やかな鬼の目がこちらに向いた。
「そういえば自己紹介がまだだったね。俺の名前は童磨。寒いけど、いい夜だ」
どうま…やっぱり余り聞かない名前だ。
それに鬼には姓名がないのかな。
今のところ名前しか聞けてない。
苗字は…って訊かない方がいいのかな。
私には苗字があるけど。
答えない方がいい?
初めて目の前にした鬼殺隊外部の鬼。
となれば彼らが、柱である義勇さん達が斬るべき存在なのだろうか。
確かに常人とはかけ離れた気配はするけど、私にとって彼らはどんな立ち位置になるんだろう。
「君の名前は?」
にっこりと、整った顔立ちを惹き立てるような笑顔を向けてくる。
童磨の問いかけにどう答えるべきか迷いはしたけど足は逃げには走らなかった。
知りたい。
この鬼達は、私にとってどんな存在なのか。
敵か。味方か。
血の気を引いたような白い顔。
同じに色素の薄い金とも白とも言えない髪は、常人離れしたような容姿だった。
それでも不思議と馴染む臙脂色の服に灰色の袴。
上にゆたりとした入子菱柄(いれこびしがら)の羽織を着た男は、自身を童磨と名乗った。
「教えてくれるかい?」
再度、名を問われる。
少し考えた後、黒板に【蛍】とだけ名前を書くことにした。
この童磨という鬼は妓夫太郎という鬼と違って文字が読めるみたいだ。
「それ読みはほたる、でいいのかな?」
「ふく」
「蛍ちゃん。うん、覚えた。俺は童磨でいいよ」
「……」
「あれ。そういえばその口枷、もしかして喋れないのかい?」
喋れなくはないけど此処で外すのは躊躇する。
暫く考えた後もう一度こくりと頷いた。