第9章 柱たちと年末年始✔
上等な着物を着てるから、つい教養は身に付いているものと思ってたけど。
見かけと中身は違うのかも…。
「お前なら読めるだろぉ? 遊郭で作法を習ったじゃねぇか」
「フン。そんな奴と話したくない」
遊郭?
遊郭って、あの吉原の?
遊廊のこと?
妹の方は、その美貌に合った仕事をしてたんだ。
遊郭か…すんごい美女だから花魁とかになれそうな気がする。
ただ兄には甘えん坊だけど、他人には冷たいのかな。目線さえも合わせてくれない。
…あれ?
でも遊女って簡単に遊郭から出られたりしたっけ。
下手したら足抜けと思われて罰せられたりするんじゃ…。
着ているものは上質だし、兄妹で一緒にいられるってことは結構な身分なのかな?
よく、わからないけど…
「はじめまして、だよ。礼儀正しい娘(こ)だね」
疑問に思いながら見下ろしていた黒板に、一つの影がかかる。
読まれるまでその存在に気付かなかった。
はっと顔を上げれば、いつの間にやらその男は目の前に立っていた。
「やあやあ、初めまして。こんなめでたい場所で同胞に会えるなんて、嬉しいことだ」
血の気のない顔だった。
色白と言うより、どこか人離れしている蒼白い皮膚。
そこに見合う金に近い薄い髪の毛。
外ハネしている癖の強い、特徴的な長髪だ。
瞳は私同様擬態化しているはずだろうに、何故か黒い眼の奥で煌きが揺らいでいるように見える。
杏寿郎に似た太い眉は優しげに下がっている。
穏やかな微笑みを称えた男だった。
柱達も見慣れない風貌は多いけれど、この男はすぐに直感できた。
これは人ならざる者だと。
「なんでアンタが此処にいるのよ…!」
「やあ堕姫! 元気にしてたかい? 妓夫太郎は半年ぶりくらいかなぁ」
だき?
ぎゅうたろう?
どうやらそれがこの兄妹の名前らしい。
どっちも聞き慣れない名前だけど、鬼にもちゃんと名前はあるんだ…そうだよね。
「まさかアタシ達の邪魔しに来たんじゃ…ッ」
「あっはっは、まさか。妓夫太郎が堕姫の為に可愛らしい着物を新調していたようだから、尋ねただけだよ。何処で使うんだい?って」
「お兄ちゃん、まさか話したの!?」
「…オレは元旦に使うとしか言ってねぇ」