第9章 柱たちと年末年始✔
私の格好も乞食のようには見えないはず。
それでも餌と称するなら、思い当たることはある。
だけど、まさかという気持ちの方が強かった。
だってそんな言い方をこの場でするのは──
「此処には人間がごまんといるからなぁ」
鬼だけだ。
「何? そいつ知り合いなの?」
「いいやぁ、初めて見た顔だ」
「じゃあ構わなくたっていいでしょ。行きましょお兄ちゃん」
「そうだなぁ…」
「お兄ちゃん?」
急かす妹に、だけど兄の目は私に向いたまま。徐にこっちへ歩み寄ってきた。
近付いてわかる、長い前髪に半ば隠れている顔には、奇妙な痣のような痕がある。
右頬から鼻筋を通り、左目の下まで広がっている。
斑(まだら)のような痕は、その血色の悪い顔を更に酷く悪目立ちさせていた。
「お前、此処らでは一切見なかった鬼だなぁ。最近来たのかぁ?」
「っ…」
言った。はっきり鬼だって。
やっぱり目の前にいるこの男は、私が鬼だとわかって話し掛けてる。
ずいと顔を近付けてくる男の目は、擬態化しているのか人と変わらない黒い瞳だ。
けれど血走ったような濁った白目に、猫背なのか覆い被さるように覗き込まれる。
その顔と姿で捉えられると何故か足が竦んだ。
これが鬼殺隊の皆が言っていた、世に蔓延(はびこ)っている鬼?
「そいつはなんだぁ? 口に咥えてんのは。食欲でも抑え込んでんのかぁ」
「やだ、構わないでいいじゃないそんな奴! お兄ちゃんってば!」
他人を構うことが気に喰わないのか、兄の腕にしがみ付いて引っ張る妹からは足が竦むような気配は感じない。
そういえば鬼にも上下関係があるらしいから…この二人にも、力の違いがあるのかな。
「まぁ待て、妙なもんを色々持ってんだよ。こいつはなんだぁ?」
私の身形が気になるのか、今度は頸から下げていた黒板を掴まれる。
まさかこんな所で鬼と出会うなんて驚いたけど、本音は会ってみたかった相手。
説明する意味でも、チョークを手に黒い板へ挨拶文を書き込んだ。
【はじめまして】
言葉を書き込んだ黒板を見せれば、兄の目がじろじろと文字と黒板とチョークを見る。
それからまた、文字。
やがてぼりぼりと頬を掻きながら暗い目が私に向いた。
「オレぁ字が読めねぇんだよ」
あ…そう、なんだ。