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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第9章 柱たちと年末年始✔



「お前が行きたいって言ったから来たんだ。一緒じゃなきゃ意味ねぇだろぉ」

「そうよ。アタシとお兄ちゃんは二人で一つなんだから」


 一目置いたのは好奇じゃない声だけじゃない。
 二人の容姿が、兄妹と言うには似ても似つかなかったからだ。

 わしわしと妹の頭を撫でている兄は、ひょろりと細く顔色も悪い男だった。
 目の周りの窪みは深く、歯並びは鋭くガタガタで、癖の強い黒髪は無造作に一つに結ばれている。
 着ている着物が上等でなければ、浮浪者と間違えても可笑しくない容姿だった。

 相反して、嬉しそうに頭を撫でられている妹は、はっと目を見張る美女だった。
 色素の薄い長髪は艷やかで、兄と同じく癖が強いのにそれさえも優美に見える。
 大きな猫目に長い睫毛、愛らしい小鼻に梅のように赤い唇。
 着飾っている着物と簪が、余計にその美貌を惹き立てていた。


「しかし初詣なんてなぁ、毎年よく誘うよなぁ。一年だろうが十年だろうがオレ達には変わりねぇだろ?」

「年明けを祝いに来てるんじゃないの。お兄ちゃんと一緒に外を自由に出歩きたいだけよ。この日なら毎年お店も休みだし」

「…そうかぁ」


 気の強そうな物言いだけど、心底嬉しそうに噛み締めて告げる姿から本当に兄のことが好きだと伝わってくる。
 その言葉が沁みたのは私だけじゃなかったみたいだ。
 寒くないようにと、兄の手が妹の襟巻を優しく正した。

 なんだかその光景が一瞬、姉との思い出と重なって。
 足を止めて魅入ってしまっていた。


「…?」


 その視線がよくなかったのか。
 垂れ目の暗い兄の目が、不意に私へと向いた。


「…へぇ」


 ただ単に他人と目が合っただけ。
 すぐに逸らせばいいものを、何故か意味深に見られる。


「オレ達以外にもいるとはなぁ」


 自分達以外…?

 誰のことを言っているのかよくわからない。
 周りを見回してみるけど、私以外の誰かを見ているようではないみたいだ。


「餌でも漁りに来たのかぁ?」


 餌…?
 餌って…ご飯の、こと?

 一瞬、言われた意味がわからなかった。
 だけどそれは一瞬で、奇妙な感覚に陥った。

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