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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第9章 柱たちと年末年始✔



 ──ドンッ


「っ」

「あ、すみません」


 不意に後ろからぶつかる体で再び視界を開く。
 しまった、長々居座ってしまってたかな…順番待ちなのに。
 遥か後ろまでまだ長蛇の列が続いている。
 次の人に譲る為に頭を下げて、拝殿前から退いた。


「…?」


 あれ。

 人混みの中でふと立ち尽くす。
 辺りを捜してみるけれど、目立つ桜餅色の髪色が見つからない。
 下駄で爪先立ちしてみるものの、男性の背丈は追い抜けないから視野が広くなる訳でもない。
 それでも悲鳴嶼行冥や天元みたいな巨体の持ち主なら見つけられるはずだけど…いない。


「ふく…」


 ま…まずい。
 まずいぞ、これ。

 義勇さんに大丈夫って言ったのに。
 まさか本当に逸れてしまうなんて。
 参拝中は手を繋いだままではいられないから、蜜璃ちゃんとほんの一瞬だけ離れた。
 それが駄目だったんだ。

 口枷を外す訳にはいかないから名前も呼べない。
 存在主張の為に、慌ててぶんぶんと手を振ってみる。
 だけど大衆の視線を集めるだけで、知った面影は見つけられなかった。

 本当にまずい。
 逸れてしまった不安からか、心臓がドクドクと鳴る音が拾えた。
 それと同時に、周りの人間達の音も。

 鬼になってから五感は前よりよくなった。
 だから拾えてしまうんだ。


『おかぁさん、あのひと、あの口にしてるのなぁに?』

『さぁ…何かしらね。近付かないようにしなさい』


 異端な者を見る目。
 潜む好奇の声。
 近付くまいと距離を取る足。

 周りは何処も人の群れ。
 何処へ顔を向けてもその目と声と足がある。

 さっきまでは気にならなかったのに。
 柱達だって常人とはかけ離れた容姿をしている人もいるから、目立っていたはず。
 さっきもきっとこの空気は周りにあった。
 それでも気にならなかったのは、蜜璃ちゃん達が傍にいてくれたからだ。


「…ふ…」


 無意識に後退る。
 後退ったって、何処へも行けはしないのに。

 からり、ころりと下駄が鳴る。


「お兄ちゃん!」


 足を止めたのは、そんな好奇ではない声を拾ったからだ。


「ちゃんと待っててよ! 置いて行かないでってば!」

「置いていったりしねぇよ。待ってるだろぉ」


 見えたのは一組の男女。
 兄妹なのか、並んで人混みの中にいた。

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