第9章 柱たちと年末年始✔
そうこうして蜜璃ちゃんに頭の灰を払って貰っていると、いつの間にか大きな拝殿まで辿り着いていた。
天元の腕より裕に太い縄も、悲鳴嶼行冥の体程ある大きな鈴も、今まで見たことがない。
圧倒されるなぁ…。
「さぁ蛍ちゃん、いよいよ参拝よ。はい、これっ」
「…ふふ?」
「いいのよ、それくらい」
蜜璃ちゃんに手渡された銭がチャリンと掌で踊る。
お賽銭用の小銭だ。
【いいの?】と黒板に文字を綴れば、笑顔を返された。
「それより参拝の時はね、お願い事ではなくて誓いを神様に伝えるのよ。前に伊黒さんに教えて貰ったの」
そうなんだ…知らなかった。
今までお願い事ばかりしてきてたな…。
「己の願望が叶うかどうかは、己の努力次第だ。神に頼りきりの他力本願なものでは叶うものも叶うまい」
成程。
ちゃっかり蜜璃ちゃんの隣を陣取ってる伊黒先生の助言には、確かに納得するものがある。
ようやく訪れた拝殿前に、蜜璃ちゃん達に習ってお賽銭を賽銭箱に投げる。
誓い…誓い、か。
新たな年の、私の誓い。
日付の感覚は曖昧だけど、お館様と約束してからは毎日数えるようになった。
次の柱合会議まで日付は余りない。
残された私の時間も、もう残り少ない。
その中で私が誓いを立てられることといえば──
「……」
二拍手の後、合掌して目を瞑る。
…正直、神様や仏様なんて余り信じてはいない。
昔は信じていたかもしれない。
姉は信仰心も深かったし。
〝全うに生きていれば、お天道様の上から必ず見ていてくれる〟
そんなことをよく口にしていた。
だけどそんな姉を待っていたのは痛々しい死だった。
そんな姉を信じていた私には、最期の最期まで救いの手なんてなかった。
もしかしたら…鬼舞辻無惨が、私にとっての救いの手だったかもしれない。
そんなこと間違えても柱達には言えないし。私も誰にも言うつもりはない。
ただ、"努力していればいつかは"、なんて淡い希望を抱くのはやめた。
神様も仏様も、切り捨てる時は切り捨てる。
それでいいんだと思う。
じゃなきゃ誰も彼もが救われて、この世は生者で膨らんでいっぱいになってしまう。
地獄へ落ちる為の役回りが必要な者もいるんだ。
私はきっと、その中の一人だっただけ。