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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第9章 柱たちと年末年始✔



 珍しく、彼の言うことも尤もだとは思った。
 何故なら私の帯紐に括り付けられている紐が一つ。
 その長い紐先は、義勇さんが手にしていたからだ。
 まるで紐で繋げた犬の飼い主のように。


「? 紐は紐だが」

「そういう意味じゃねぇよ! なんでそいつを紐で繋いでんだって意味だッ」

「?? 何処かへ行ったら困るからだ」


 啖呵を切るような勢いの不死川実弥に、全く臆さない義勇さんは相変わらずの義勇さん。
 胡蝶相手の時もそうだけど。ここまで喧嘩を売られて自分の歩調を貫ける人も、そういないと思う。


「何処かって何処だよ」

「何処かは何処かだ。人の多い此処では見失う危険性がある」

「だからって紐で繋ぐのもどうかと思いますけどねぇ…周りの視線集めてますよ?」


 う。胡蝶の言葉がぐさりと心に突き刺さる。

 口枷の時も、隠の皆に変な目で見られてたのに。
 大衆の注目を集めてしまうのはできれば遠慮したい。


「仕方ないだろう。こうでもしないと彩千代が逸れたらどうする」

「ふふ!」

「あら! 蛍ちゃんが"だいじょうぶ"ですって。冨岡さんっ」


 今回は、蜜璃ちゃんに貰った黒板とチョークを常備できてる。
 急いで黒板に書き上げた言葉を掲げれば蜜璃ちゃんが代弁してくれた。


「お前が大丈夫でも保証はできない」

「ふ…」


 あ…やっぱり駄目か。


「なら俺が持ってやるよォ」

「ふぐっ」


 急にぐんっと体が引っ張られる。
 見れば、紐を奪うようにして握る不死川実弥がいた。

 うわちょっと。


「いい。俺の責務だ」

「ふくっ」


 今度は左に。
 持ち手は義勇さん。


「いつもテメェが見張ってるだろーがァ。偶には休めや!」

「ぅくっ」


 またも右に。
 持ち手はおっかな柱。


「遠慮する」

「んぅっ」


 またまた左…って紐の取り合いなんてしないで欲しい! 
 引っ張られてるから!
 足がもつれる!


「むッそこまでだ二人共! それなら俺が──」

「二人共喧嘩はダメぇ!!」


 ブチッ!


 あ。

 間に入ろうとした杏寿郎より早く、蜜璃ちゃんが渾身の力で紐の中間を引き千切った。
 凄い。編み込みされて強度の増した紐なのに。
 両手の力だけで引き千切るなんて。
 流石、捌倍娘(はちばいむすめ)。

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