第4章 柱《壱》
「…ふぐ、」
「む?」
というか、つぐこって何?
知らない言葉に杏寿郎の羽織を軽く引っ張る。
地面に【つぐこ】と綴れば、納得したように頷いてくれた。
「継子は柱が直轄で面倒を見る、弟子のようなものだ。甘露寺は筋がとてもよかったが、余りにも独創性があって炎の呼吸には合わなくてな。故に自分の呼吸を」
「おいおい待て待て煉獄よ。何ド派手に敵に俺達の情報漏らしてんだ?」
「これくらいなら問題無しだ」
「これくらいもそれくらいもねーよ。こいつがあの鬼舞辻と密通してたらどうすんだ」
こいつ、と言って私を見下ろしてくる忍者の目は、底冷えするような冷たさがある。
だけど杏寿郎の態度は一貫して変わらなかった。
「それはないな。もし彩千代少女が鬼舞辻と繋がっているのならば、とっくにこの土地は敵に割れている。しかし彼女を捕えてから一度も、此処は奇襲に合っていない。それが答えだ」
そもそも私は無惨とは、はっきりとした接点さえない。
あの朧気に聴いた声しか知らないから、無惨の顔も知らない。
密通なんて無理な話だ。
そういう意味で大きく頸を横に振って見せれば、納得しない顔をしていたものの、忍者はそれ以上責めてはこなかった。
ちゃんと相手の言葉を呑み込んで受け入れる頭はあるんだ…一瞬あの自己紹介に頭大丈夫かなとか思ったけど、やっぱり柱なだけある。
「ねぇねぇ蛍ちゃん」
「?」
今度は私が袖を引かれる。
見れば、えっと…蜜璃、ちゃんが、大きな瞳をこちらに向けていた。
「私は蛍ちゃんが悪い鬼じゃないって、信じるわ。だって貴女からは、嫌な気配を感じないもの」
こそこそと耳打ちしてくるように、傍に顔を寄せて伝えてくる。
その鮮やかな髪色と等しく綺麗な瞳には、偽りなんて見えなかった。
「だから仲良くしましょう!」
ぎゅっと両手を握られて、そういえば人肌はこんなふうに温かかったのだと思い出した。
「……」
「…蛍ちゃん? どうしたの?」
「なんだ、また固まったのか? おい鬼」
「どうした彩千代少女!」
思わず俯いてしまった私に、三人の声がかかる。
両手で握ってくれている蜜璃ちゃんの手はやっぱり温かくて、そっと爪が当たらないようにして握り返した。