第9章 柱たちと年末年始✔
「わぁっ凄い人の数ね…!」
蜜璃ちゃんの言う通り。
右を見ても左を見ても人の群れ。
夜だっていうのに、こんな時間帯にここまで人が多い景色は見たことがない。
それ程に、訪れたのは大きな神社を祀る場所だった。
「諸君! 迷子にならないよう気を付けるように!」
「俺らは餓鬼じゃあねェぞ煉獄」
「迷子と言って当て嵌まるのは一人だけだろう」
「鬼子のことか? しかしもう小さな幼女ではないようだが…」
「幼女じゃなくても目を離しては駄目ですよ。悲鳴嶼さん」
「夜中なのに、なんでこんなに人が多いんだろう…」
「そりゃ元旦だからだろ。オイ蛍! お前も尻込みしてんなよ」
溜息をつく時透くんの隣に立つ天元に呼ばれて、進み出る。
その後ろに見えるのは、人でごった返す場所。
お館様に義勇さんが鎹鴉を飛ばせば、即刻了承を貰えた。
楽しんでおいでと背中まで押されて。
そして訪れたのは、鬼殺隊から一番近場の神社らしいけど…鬼になってから、こんなに大勢の一般市民を前にしたことがないから緊張する。
飢餓症状、出ないかな…大丈夫、かな。
踏み出す度に、からんと鳴る。
履き慣れない漆塗りの下駄は私には高級感があり過ぎた。
「ううん! 蛍ちゃん可愛いッ♡」
口元に両手を当てて喜ぶ蜜璃ちゃんの姿は、白地に赤や橙の明るい熨斗目(のしめ)模様が入った着物姿。
上には紺色の分厚い長羽織。
温かそうな襟巻も、同じく紺色に合わせてある。
小さな菊格子(きくごうし)模様が可愛らしい。
同じく私も、蜜璃ちゃんに仕立てられるままに同じ着物を着せられた。
黒地に同じ熨斗目模様が入った着物に、長羽織と襟巻は臙脂色(えんじいろ)。
足袋も手袋も黒を基調に、ちゃんと厚手の物にして貰ってるからそんなに寒くない。
でも特に蜜璃ちゃんの目が輝いているのは、多分私の髪型だ。
それこそ頭から爪先まで仕立てられて、いつもは簡単にまとめるだけの髪を、今は後ろで一つの三つ編みにして輪っかを作りリボンで飾るという髪型。
マガレイト、とか言うんだそう。
初めてした髪型だ…後頭部と三つ編みに飾られている臙脂色の幅広リボンが、なんだか不慣れで恥ずかしい。