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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第9章 柱たちと年末年始✔



「……」


 じっと、黒い眼が小さな少女の様を見つめる。
 蛍が焦りや緊張を憶えているのはわかる。
 それでも離れない小さな手に、ふと義勇の肩が僅かに下がった。
 力を抜くようにして。


「自分の主張はしないのに、そういう時は強いな。お前は」


 普段はあまり自分の主張は出してこない。
 しかし何かを伝えようとする時は、正面から向き合おうとする。
 躓きながらも、迷いながらも。
 そんな蛍の姿に、いつの間にか張っていた力は抜けていた。


「言われなくても簡単に放る気はない。彩千代一人じゃまだまだ不安だ」


 迷いなく口にする義勇に、ようやく蛍の顔が上がる。
 幼女の姿をしているからだろうか。
 そんな小さな存在を目の前にしていると、簡単に手を放してはいけない気がした。


「めいわく、かけるけど…」

「そんな認識で見ていない」

「そ、っか…うん。それなら…よかった」


 ほっとした表情で、羽織を掴む蛍の手が緩む。
 その手が離れる前に、上からやんわりと義勇の手が握り込んだ。


「ああ。彩千代が煉獄に勝ってよかった」


 するりと口をついて出たのは、なんの前触れもなく。


「え?」


 一体なんのことかと、わからず目を瞬く蛍に義勇もまた押し黙る。


「かつって? うでずもうのこと?」

「……」

「なんでわたしがかつのが、よかったの?」

「…なんでもない」


 握っていた小さな手を放す。
 くるりと背を向けると、再び義勇は炬燵の中で横になった。


「え? ぎゆうさん?」

「まだ夜は長い。寝たらどうだ」

「いや、ねるって…え、ぎゆうさんねるの? ほんきで?」

「……」

「ぎゆうさーん…?」


 呼び掛けてくる幼い声を背後に、義勇は仄かな体温の残る己の掌を見つめた。


(…そうか)


 何故杏寿郎が蛍を正式な継子にすると言った時、焦燥感を覚えたのかわからない。
 今でもその答えは出ていない。
 しかしやはりその感情は気の迷いではなかったのだと気付いた。


(お館様と契を交したからだけじゃない)


 仄かにまだ残る体温。


(俺が、見ていたいからだ)


 それを、手放したくないと思った。











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