第9章 柱たちと年末年始✔
「ぎゆうさんがしんでたら、わたしもしんでたから。わたしはぎゆうさんがいたから、いまここにいるの」
「……」
「だから、その…たとえだれかのいのちをきってしまっても、ほかのだれかのいのちをつないでもいるから…その…」
「……」
「そ、その…なくしたひとのために、しぬなんて、だめ、だよ…」
段々と萎んでいく声。
自信を失くしたかのように落ちていく蛍の声に、義勇は静かに息を吐いた。
「心配するな。今更失くした命は戻ってこないことくらい、わかっている。やり直しなんて利かない。そう言ったのはお前だろう」
(それは、そう、だけど…)
義勇が周りから目を逸らし続けているのは、その亡き魂だけを見つめているからだろうか。
蛍自身にも憶えはあった。
亡き姉だけに思い馳せていた時は、死んでも構わないと思っていたのだから。
しかし今は、簡単に死を望んではいない。
いつかは来るものだと迎える気ではいる。
それでも今此処で命を繋いでいるのは、まだその時ではないからだ。
(仮の話だけど、仮じゃない。義勇さんは本当はそれを望んでいるんだ)
彼を傍で見ていて欲しいと、耀哉に頼まれた。
しかし隣りにいて感じるのは程遠い義勇の心だ。
とてもじゃないが掴み切れない。
「…わたし、」
そう悟ったから手を伸ばしたのだろうか。
「こきゅうほう、まだぜんぜんあつかえないの」
小さな手は、再び半柄羽織を掴む。
「きがしょうじょうもすぐくるし、ちにあてられるとみつりちゃんのこえもきこえなかった」
「…?」
「でもぎゆうさんのこえは、きこえた。たいおんが、つたわった」
突然の蛍の投げ掛けに、意図がわからないと怪訝な顔を向ける。
そんな義勇に、尚も蛍は続けた。
「まだひとりじゃぜんぜんだめだから。ぎゆうさんが、いてくれない…と…」
切羽詰まったような声色が、不意に意気消沈する。
(って何こっ恥ずかしいこと言ってるの自分…!?)
改めて自覚すれば、なんとも大層我儘な願いを向けてしまった。
顔色をあれこれと変えながら俯く蛍を、物珍しげに義勇の目が追う。
視線が辿り着いた先の小さな手は、それでも繋ぎ止めるように尚、羽織を握り続けている。