第9章 柱たちと年末年始✔
「ほんとうのじんせいは、たのしいだけじゃないから…かなしいことやつらいことのほうが、きおくにのこるとおもう」
楽しい時間はいつも一瞬だ。
この柱会のように。
「やり直したいと思うか。人生を」
「……さぁ」
不意の義勇の問いに、考えるように蛍は狭い天井を見上げた。
「こうかいは、いっぱいあるよ。やりなおしたいことも、たくさん」
もし、あの場で別の選択をしていたら。
鬼にならなかったかもしれない。
姉は死ななかったかもしれない。
そんな後悔は山程ある。
「でももしやりなおすなら、べつのじぶんがいい」
「どういう意味だ?」
「いまのわたしでやりなおしたいかっていわれたら…わからない、から」
また同じ道を辿ってしまわないか。
また鬼と成って姉を殺してしまわないか。
そんな恐ろしさもある。
しかし先日、この狭い檻の中で杏寿郎へ感じた思いも確かだった。
自分が鬼になったからこそ、今この場で生まれた出会いも思いも存在しているのだ。
それは案外悪いものではないと思えた。
「まぁ、けっきょくそんなことかんがえたところで、やりなおしなんてきかないけど」
小さな笑みを称えて、視線を戻す。
「ぎゆうさんは? やりなおしたいことってある?」
何気なく問い掛けたつもりか。蛍のその問いに、真っ先に義勇の頭に浮かんだのは二人の人影だった。
「ある」
予想もしていなかった答えに蛍の目が見開く。
「俺の所為で亡くしてしまった命がある。…俺が代わりになっていれば、生きられたはずの命だ」
「(それって…)…ぎゆうさんがかわりにしぬってこと?」
「……」
無言は肯定と同じこと。
何事にも無頓着な義勇の姿勢が、ほんの少しだが理解できた気がした。
生への渇望がないから、こうも周りに興味を示さないのか。
「だ、だめだよ」
咄嗟に言葉を吐き出していた。