第9章 柱たちと年末年始✔
「彩千代」
静かな声で呼ばれた。
驚いて振り返れば、声の主は思った以上に傍にいた。
蛍の左側で炬燵に入り眠っている蜜璃。
それとは反対の右側にも、同じく雑魚寝をしている人影。
「…ぎゆうさん?」
雑魚寝など凡そ想像のつかない彼が其処にいた。
「起きたのか」
「ぎゆうさん、も…」
「俺は寝ていない」
「じゃあなんでよこになってるの?」
問えば、無言で義勇が視線を下げる。
同じく蛍も視線を下げれば、自分の手元に辿り着いた。
蜜璃の腕の中にいながら握り続けていたのか。
小さな手が掴んでいるのは、義勇の半柄羽織。
「ぁっ…ご、ごめん」
「別にいい。どうせお前を見ているつもりだった」
慌てて手を離せば、義勇も静かにその場に身を起こす。
小さな格子窓の外は一層闇と化した夜。
長い時間は寝ていないだろうが、それでも義勇を拘束してしまったことに蛍は申し訳なさそうに肩を下げた。
「ぎゆうさんいがいに、おきてるひとは…」
「いない。宇髄や不死川達は飲酒のし過ぎだな。お前も」
「ぅ」
唯一口に出来るものだったから、ついついワインに手を伸ばし続けてしまった。
その所為か、はたまた別の理由か。赤らむ蛍の頬に、義勇の指先が触れる。
「っ? ぎゆ、さん…?」
「二日前より大分顔色はよくなった。不死川の稀血の影響も、そんなに出ていないか」
「わ、わからない、けど…(ち…近い)」
まじまじと蛍を観察した後、義勇の手が離れる。
内心ほっとしつつ、蛍もまた改めて義勇を見直した。
最後の彼の記憶は、双六のルールがよくわからず呑み込めていない姿だった。
「ぎゆうさん」
「?」
「すごろく、どうだった? たのしめた?」
「…面白い、という意味では」
「それはたのしいとはちがうの?」
「不死川達がああも真剣に取り組む程、惹き付けるものという意味では。面白い」
「…なるほど」
単なる遊びの疑似人生。
それでも金を稼ぎ他者を出し抜き結婚をし子供を生む。
「人生は、ああも上手くはいかないがな」
「…だからたのしいだけでいいのかも」
娯楽だけで済むのは所詮それが仮初(かりそめ)だからだ。