第9章 柱たちと年末年始✔
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「…ん…?」
ふわふわとした温かくて柔らかな空気。
蛍が起床したのは、そんな空気の中だった。
(…あれ…?)
目元を擦れば、いつもの薄暗い檻の中ではない。
否、同じ檻の中ではあったが灯りが強い。
幾つも灯された行灯を傍に、むくりと体を起こす。
「…ぁ…」
そこで初めてその空気の正体を悟った。
「むにゃ…ぅぅん…」
むにむにと口元を動かしながら気持ちよさそうに眠っている蜜璃の、腕の中にいたからだ。
気持ちよさそうな寝言は蜜璃だけではない。
幾つもの寝息を耳に、見覚えのある感覚に蛍は辺りを物珍しそうに見渡した。
(…皆で寝てる…)
其処は蛍が衣住を余儀なくされた、見慣れた藤の檻の中。
しかしいつもと違うのは人口密度。
狭い檻の中に押し込められた炬燵に、更に押し込められた数人の男女。
それらがひしめき合って炬燵の中で雑魚寝をしていた。
炎柱邸で皆で布団を並べて就寝したことを思い出す。
机の上には、大きな双六の図面と散らばった駒や紙で出来た紙幣。
飲みかけのグラスに食べかけの皿。
明らかに娯楽祭の後だとわかる風景だった。
(そっか…皆で双六をして、お酒も飲んでたから…そのまま寝ちゃったんだ…)
幼女の姿のままだからと、再び蜜璃の膝の上に誘われた。
そのまま興じた双六は、遊びだというのに罰則も在ってか本気でかかる天元や実弥が騒がしくて。勢いに呑まれながら、頸を傾げるばかりの義勇に双六のルールを教えていた。
それがいつの間にやら眠りへと誘われていたらしい。
「……」
ぽつんと一人。
小さな頭で周りを見渡す蛍に、反応を示す者はいない。
(本当、ある意味凄い集団だなぁ…)
鬼である自分を前にして、こうも無防備に寝られるとは。
それだけ確かな実力を持っているからだろうが、警戒心の無さに思わず小さな笑いが溢れる。
「はは…」
それだけ危険対象としては見られていないのだろうか。
(だとしたら嬉しいんだけど)