第9章 柱たちと年末年始✔
「次は敗者が罰則の勝負だ。負けた奴は勝った奴の一日パシリな!」
「本当そういうの好きですよねぇ宇髄さん…」
「他人に仕える修行ということだな! 面白い!」
「成程! 私も頑張らなきゃ!」
「煉獄は前向き過ぎるだろう。甘露寺は同乗しなくていいぞ」
「勝った奴は負けた奴を犬扱いできるってことかァ。面白ェ」
「俺はそういうの興味ないけど、このすごろくっていうのには興味があるかも」
「力では及ばない運試しか…面白そうだ。私も参加しよう」
わいのわいのと再び炬燵に入り込む柱達。
天元の肩の上でふと振り返った蛍は、唯一その騒ぎに参加していない男を見つけた。
「ぎゆうさん」
呼べば、その目は確かに向く。
しかし足は踏み出さない。
暫くその姿を見やった後、蛍はぺちぺちと天元の肩を叩いた。
その場に下ろして貰い、小さな足で義勇の下へと歩み寄る。
「ぜんいんさんかみたいだから。ぎゆうさんも」
「…双六はしたことがない」
半柄羽織の袖を小さな手が握る。
催促するように、軽く引いて。
「じゃあ、いちどやってみたらいいよ。やりかたおしえるから」
幼少姿故なのか、気の抜けた笑顔を向けてくる。
そこには先程のように肩を落とし、気を病むような姿は見当たらない。
じっと見下ろしていた義勇は、やがてその目を炬燵を囲む柱達へと向け直した。
行冥の祝いも共にするつもりなのか、飲み物や菓子類を用意している彼らの姿は余り見かけたことがない。
(いや、そうじゃない)
何度も柱会は開催されてきた。
其処に足を運ばなかったのは義勇自身だ。
恐らくそれは杏寿郎や天元達にとっては見慣れたもので、ただ義勇が知らなかっただけのこと。
「ぎゆうさん?」
返答のない義勇に、再度蛍が呼び掛ける。
その小さな姿に再び視線を戻す。
自分は柱ではない。
故に柱である彼らと対等に向き合うことはできない。
しかし鬼である蛍をも受け入れている今のこの空間は、彼らが持つ"柱"という肩書きは存在していない。
ならば其処に自分が存在することも厭わないだろう。
「…わかった」
今までは迷わず背けていた足。
それをゆっくりとだが確かに、義勇は一歩踏み出した。