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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし



 表面をうごめく影は炎のように揺らぎ立つ。
 全身に纏う様は、ふつふつと炎を上げる獣のようだ。

 太い四肢に、長い尾。
 揺らぎ立つ毛並みに、黒い影の中に浮かぶ紋様。

 徐々に姿を見せる獣が、頭部を造り上げていく。


(あれは、まずい)


 裂けた自身の肉片が、思うように細胞を繋げない。
 その強烈な一打を打ち込んだ獣の、姿が現れようとしている。
 それだけは阻止しなければならない。
 全身の細胞が、ただ漠然と少年に危機感を植え付けた。


「っゲほ…!」

「きよッ!!」


 突如、意識を失っていたきよの口から、大量の水と咳が飛び出る。
 アオイの必死の蘇生により、どうにか意識を取り戻すことができたのだ。


「す、み…アオ…イ、さ…」


 未だ表情は乏しいが、二人の顔を見て認識できている。
 命を繋ぎ止めたきよの姿に、衝動的にすみが抱き付く。
 二人のその姿に、アオイもようやく安堵の笑みを浮かべることができた。


「蛍! こっちは大丈夫だから!」


 ひとまず危機を脱せたことを知らせる為に声を上げる。
 アオイの呼びかけに、微動だにしていなかった蛍の視線がぴくりと動いた。

 一瞬。
 一呼吸分の間だ。

 その間を、少年は見逃さなかった。


「く…ッ!」


 肩から大きく裂けた体は、無理矢理に自身の手で左右から押し繋げる。
 同時に無事なままの足を使って、蛍から距離を取るべく後ろへと飛躍した。

 どんなに大きな傷跡でも、いずれは回復する。
 鬼同士の殺し合いとなれば共食いの可能性はあれど、蛍はその手を取らないだろう。


(警戒すべきはあの半柄の男だけだ…!)


 幸い、地の利は未だこちらにある。
 少年の体に空気中の水が浸み込めば浸み込む程、再生速度は速まっていく。
 枯れ木の枝に飛び乗った時、既に傷口は塞がっていた。


「距離さえあればそんな影など──!」


 ザンッと一閃。空気が断ち切られる。
 振動さえ鼓膜に響く音に、少年の目が見開いた。

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