第9章 柱たちと年末年始✔
何か気の利いたことを言えるとは思っていない。
それでもその身は少女へと乗り出していた。
「お」
「勿論だともッ!!!」
「…い?」
しかしその手が蛍の肩に触れる前に、響いたのは強い肯定の声。
思わず固まる義勇の目が捉えたのは、今の今まで行冥を祝っていたはずの柱達。
「蛍ぢゃんっなんて健気なお願いなの…ッ!」
「何をそこまで勝ちに行くかと思えば、そんなこと願ってたのか。地味だな」
「ってことはまた死合いたいってことかァ。いいじゃねェか」
「不死川さんと彼女の願いは大きく違うと思いますけどね…」
「っ…(聞かれてた!)」
義勇と二人きりで話していたつもりだったが、狭い炬燵で埋まった檻の中。聞かれない方が無理な話。
半端な願いを知られてしまったことに羞恥が募るが、柱達の反応は蛍の予想とは反していた。
「願わずとも、俺はまた一年の締め括りに君と刻(とき)を振り返りたいと思うぞ。蛍少女のお陰で日々が楽しい」
「ほ…ほんとに?」
「うむ!!」
「はいはーい! 私も! 蛍ちゃんと出会ってから毎日があっという間で驚きの連続なのっそんな毎日がとってもキラキラしていて凄く楽しいわ!」
「…みつりちゃん…」
膝を折り目線を合わせてくる杏寿郎と、威勢よく片手を振って主張してくる蜜璃に、蛍の胸の奥がじわりと何かを染み込ませていく。
都合の良い願い事だと自嘲していたのに、いざそれを認められるとなんとも言えないものがこみ上げた。
「わ…わたし、も」
その見えない熱が、背を押したのだろうか。
「おりのなかにいても、きょうじゅろうたちといっしょなら…たのしいって、おもえる、から」
小さな両手を握り合わせて、羞恥混じりにでも伝えてくる。
「だから…また、こんなじかんをすごしたい…」
ぽそぽそと小声で伝えられる、少女の儚き願い。
それは確かに、その場にいた柱全員の耳に届いた。