第9章 柱たちと年末年始✔
「……」
「…?」
そこから先は言葉にできなかった。
不思議そうに見下ろしてくる義勇にも言えない。
(駄目だ。これは、違う)
当主の産屋敷耀哉は、自分で柱を認めさせろと言った。
それは懇願して叶えてもらうものなのだろうか。
頼み込んで乞うものなのだろうか。
そうして向けられた目は、果たして本当に認めてくれた証となるのだろうか。
「どうした」
「……」
「彩千代」
催促するでもない、静かな義勇の呼び声。
それに再び蛍の唇は微かに開いた。
「…わたし、」
拳を握る。
望みはある。
しかしそれは欲する形が違う。
「また…これが、したい」
「…これ、とは」
「ぁ…えっと…はしら、かい」
一度止まった言葉を辿々しく紡いだ蛍に、義勇の頸が傾く。
「はしらかいじゃなくても、いいんだけど…また、こういうの…」
同じ釜の飯は食べられない。
人と鬼との境界線が交わる訳でもない。
それでも同じ空気を吸い、同じ暖を取り、同じ言葉を交わすことは、蛍にとって嫌なものではなかった。
「またおなじじかんを、すごせたらなって…ぎゆうさん、も」
ようやく上がった顔が、義勇の視線を捉える。
「そしたら、こんどはたのしめるほうほうをみつけられるかもしれない、から」
へら、と気の抜けたような笑みを向けられ、見下ろす義勇の黒い眼がほんの少しだけ丸くなる。
「いらない、おせわかもしれないけど…」
「……」
「でも、また、こうしてみんなですごせたらなって…」
「……」
「…うん」
段々と萎む声。
自分で自分の言葉に頷きながら、蛍は力無く笑った。
(…狡いな、私)
真に望んだ願いとは違う。
それでも零してしまったのは、ほんの少しでもこの時間が続けばいいと願ったからだ。
認められている気はしない。
それでも同じ空気を吸い同じ時を過ごすことを許されているのならば。
それは共に生きることが、できているのではなかろうか。
(こんなの正攻法じゃないや…)
直接願うこととは違っていても、結局は違う形として己の存在を乞うたのだ。
自然と落ちた肩が尚、幼き少女を小さく見せる。
その姿に義勇の口が開いた。