第9章 柱たちと年末年始✔
「……」
「なんだ?」
その先は言葉にならなかった。
柱ではないと一度返されている。
またもその返答を貰ったら、それ以上はもう訊けない。
「…ううん、なんでも」
ふるふると頸を横に振って目線を外す。
重ならなくなった視線に小さな後頭部を見下ろしながら、義勇もまた口を閉じた。
沈黙。
二人の間に静寂ができると、周りが賑やかなことも相俟って余計に沈黙を感じてしまう。
(な、何か話題…)
見ていて欲しいと頼まれた時は簡単なことだと思ったが、改めてそれを意識するとなんとなく難しい。
手持ち無沙汰に両手を握り返しながら、話題を求める蛍の頭に浮かんだのは先程の義勇と杏寿郎の勝負の行方だった。
「そういえば…ぎゆうさん、なにかほしいものでもあったの?」
「? なんの話だ」
「きょうじゅろうにまけたとき、むずかしいかおをしてたから。もしかして、かちたかったのかなって」
「……彩千代程、勝ちたかった訳じゃない」
「ぅ」
「そういうお前こそ、そこまで欲しいものがあったのか」
問いには問いで返されてしまった。
自分を柱達に認めて欲しかった、なんて言えるはずもなく。
両手を握り合わせたまま、蛍の頭はまもたもや俯いてしまった。
「別に、口にしたって罰は当たらないぞ」
「…いったって、かなわないのに?」
「出さなければ叶うも何もない。それ以前の問題だ」
(…確かに)
そっと、伺うように前髪の隙間から義勇の顔を覗き見上げる。
杏寿郎や実弥のように強い視線はこちらへ向いていない。
無心のように周りを見ている義勇の目は今の蛍には圧がなく、丁度良い距離感だった。
だから口を開けたのだろうか。
「…わたし…」
鬼としてではなく。
ただ一人の、生きとし生けるものとして。
「わたし、を」
ただ認めて欲しいだけだ。
生きとし生けるもの全てに与えられている、当然の権利と同様に。
ただこの世に、
「…わたし…を…」
受け入れてほしい。