第9章 柱たちと年末年始✔
「ぎゆうさんは、はしらかいのことしらなかったんだよ、ね?」
「存在は知っていた。しかし場所は聞いていなかった。いつもは参加しないが、お前の所に総出で押し掛けると聞いたから来たんだ」
(もしかして、天元の言ってた私がいるから参加してる人って…)
喧嘩勝りな風柱と、この何事にも無頓着な水柱のことのようだ。
「来てみて正解だった。ただの飲み会にもならないな…お前がいると」
「ぅ…ごめんなさい…」
「責めてる訳じゃないと、言った」
溜息をついて、感情の見えない黒い眼が辺りを見渡す。
優勝した行冥を祝う柱達の姿を、何処か他人事のように義勇の目は見ていた。
「あれが柱達なりの楽しみ方かもしれない」
「ぎゆうさんだってはしらでしょ」
「……」
素朴な疑問は、ふと以前のことを蛍に思い出させた。
自分は柱ではないと言い切った、あの義勇の言葉だ。
(そういえば…お館様も、義勇さんは柱としての覚悟を損なってるようなこと言ってたっけ…)
普段から他人と関わろうとせず、実弥や天元のように積極的に己の腕前も振るわない。
しかし蛍に危険が及んだ時、周りの柱達に劣ることなく前に立ち壁になっていた。
実際に目にしなくてもわかる。
産屋敷耀哉の言う通り、剣士として確かな実力を持った男なのだろう。
独りで立ち、独りで歩くことができる者だ。
だから見ていて欲しいと、願いを託された。
「…ぎゆうさんは、たのしく、ない?」
そっと見上げて問い掛ける。
感情を浮かべない端正な顔立ちは、ぴくりとも動かない。
「どうだろうな。こういう会には参加したことがない」
「じゃあ、さんかしてどうだった? みんなとおなじごはんをたべて、おさけをのんで、ちからくらべをして」
「…飽きはしないだろうな」
それは肯定か否定か。
曖昧な返事を零す義勇に、蛍は言葉を詰まらせた。
自分が義勇の立場であれば、楽しいと思える空間だ。
皆で温かな暖を取り、美味しいものを食し、ああして誰かを祝い談笑できるのなら。
鬼としてではなく、共に戦う柱という同志であれば。
「ぎゆうさんは…なんで…」
だからこそ気付けば問い掛けていた。
(柱に、なったの?)
素朴な疑問を抱えて。