第9章 柱たちと年末年始✔
「まぁ、当然っちゃあ当然だよな。悲鳴嶼さん相手に力で勝てる奴なんて柱の中にもいねぇし」
「むぅ…俺は蛍少女が勝つ姿が見たかった…!」
「やはり今までの彩千代蛍の勝ちはまぐれだったんだろう。これで証明された」
「あ。じゃあご褒美貰えるのは悲鳴嶼さんになるのかな」
「私は…この世が絶え間なく平和であって欲しいと願うだけだ…」
ジャリジャリと数珠を摺り合わせながら願う行冥のなんとも"らしい"解答に、やはりそうかと柱達も頷くばかり。
(………負けた…)
ただ一人、意気消沈したように項垂れている蛍を除いて。
一瞬で薙ぎ倒された腕は、まだぴりぴりと余韻が残る。
それだけ途方もなく実力差がある相手だった。
(なんで一瞬でも勝てるかもって思ったんだろ…)
よくよく考えずとも、しのぶの言う通り結果はわかっていたことだ。
それでも切望してしまったのは、これが唯一の打開策だと思ってしまったからか。
だから尚のこと凹むのだ。
これではもう道を切り拓きようがない。
「彩千代」
「…ぁ」
ふ、と目の前に影が掛かる。
見上げれば、賑わう柱の輪には入らず、常に一歩退いている義勇が其処にいた。
「…そんなに勝ちたかったのか」
「ぅ…」
余程敗北にショックを受けている様が伝わったらしい。
まじまじと見下ろしてくる黒い瞳に、逃れるように思わず目を逸らしてしまう。
これ程まで実力差がありながら、一瞬でも勝てると思ってしまった自分が恥ずかしい。
いくら蛍が鬼であっても、相手は鬼殺隊の剣士であり、柱である。
彼らは特別なのだ。
「腕を見せろ」
「…べつに、けがは…」
「そっちの腕じゃない。自分で喰らった方の腕だ」
小さな少女の姿に合わせるように隣に腰を下ろしてくる。
差し出された掌に細い腕を乗せれば、腕相撲によって乱れた包帯を正された。
「休ませるつもりで与えた休息なのに、怪我をしては意味がないな」
「あ、はは…ごめんなさい」
「別にお前を責めた訳じゃない。不死川の血を飲んだんだ、仕方のない結果だ」
きっちりと隙間なく直された包帯に、腕を解放される。
頭を下げて礼を伝えながら、蛍は今一度義勇を見上げた。