第9章 柱たちと年末年始✔
(勝てるのかな…)
まるで勝てる気がしない。
思わず後退りそうになる姿勢を、拳を握ることでどうにか踏ん張る。
(駄目だ、弱きになったら。ここまできたんだから)
無理だと思われていた天元も実弥も杏寿郎も打ち破った。
あと一人、目の前の男を倒せば道は切り拓かれるのだ。
杏寿郎は、なんでも好きなものを望めと言った。
もし自分の存在意義を求めれば、柱達をはそれを認めてくれるのだろうか。
(今そんなことを考えても無駄だ。とにかく今は──)
ふるりと頸を横にひと振り。
邪念を振り払うようにして、蛍は真っ直ぐに行冥を見上げた。
(勝たない、と)
今は、目先の勝負が何より先決なのだから。
「始め!」
「南無三」
ゴンッ
「一本!」
「え?」
「あ?」
「は?」
試合開始、ものの一秒にも満たなかった。
瞬く間に机に伏せられた拳に、皆の目が点になる。
杏寿郎が号令をかけた途端、机に薙ぎ倒されたのは蛍の腕。
「悲鳴嶼殿の勝ちだ! よって今回の優勝者は悲鳴嶼行冥ッ!!!」
「ぇぇぇぇ…」
「ほたる、蛍ちゃんが負けちゃったぁああ!!!」
「…まぁ、結果は見えていましたよね…」
唖然とする空気の中、思わず机に蛍の顔が突っ伏す。
絶対に勝つんだと決意を抱えた直後の、負けの予兆も感じさせない秒での敗北。
涙の一滴だって出やしない。
(力を入れる暇もなかった…!)
こうして蛍の腕相撲大会は、呆気なく敗北を迎えたのだった。