第9章 柱たちと年末年始✔
「てかげん、してくれたの…?」
「…いや、俺は」
「あり、がとう」
「……」
自分の負けが当然であったことは、蛍自身理解しているようだった。
ふやりと力の抜けた笑みを向ける蛍に、杏寿郎の体からも力が抜ける。
「…うむ」
そうではない、と否定はできたがしなかった。
素直に勝利を受け入れて喜んでいる蛍に、わざわざ混乱を招きたくなかったこともある。
ふ、と杏寿郎の口元が緩んだ。
「一瞬緩んだ俺の隙を突いたのは事実。一時足りとも力を抜かなかった、蛍少女の勝利だ」
おめでとう、と祝いの言葉を乗せて頭を撫でる。
大人しくその掌を受けた少女は、くすぐったそうに力の抜けた笑みを浮かべ続けていた。
「でもまさか悲鳴嶼さんと鬼が最後に勝負することになるとはね…想像しなかったな」
「単なるまぐれだろうがな」
「でもでもっここまで来れば打倒悲鳴嶼さんよ蛍ちゃん! 頑張りましょうねッ!」
「う、うん」
「鬼子と手合わせか…興味深い…」
「だが蛍もかなり疲労してるみたいだしな。少し待ってやったらどうだ? 悲鳴嶼さんよ」
「うむ、俺も宇髄に同意だ。蛍少女を少し休ませてやって下さい」
「単なる力比べでも柱が鬼に負けるなんざ面目丸潰れだ。悲鳴嶼さんよォ、負けんじゃねぇぞ」
「…不死川は彩千代を応援したり敵対したり、どっちなんだ?」
「そういうことは思っても言わないことですよ、冨岡さん」
わいわいと賑やかに騒ぐ檻の中。
蜜璃に背中を押され、天元に肩を叩かれ、杏寿郎に期待の眼差しを向けられて、蛍は誰よりも高い背丈を見上げた。
狭い檻の天井に付きそうな程の身長は220cm。
天元をも上回る筋肉のある上背に、その巨体とは相反した物静かな空気。
しかし静かであればある程、重くのしかかる。
悲鳴嶼行冥にはそんな得体の知れない強さを感じた。