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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第9章 柱たちと年末年始✔



「ああっ蛍ちゃんが負けそう! どどどうしようしのぶちゃん!」

「どうするも何も、私達じゃどうにも。それが結果ですよ」

「そんな冷たいこと言わないでしのぶちゃんんん!」

「そんなこと言われましても…煉獄さんには及ばなかったと言うだけです」

「でもぉ…唯一勝ち進んでる女の子だから勝ってほしかったのに…」


 涙ぐみ呟く蜜璃の言葉に、ぴたりとしのぶの口が止まる。
 確かに蜜璃の言う通り勝ち進んだ女は蛍しかいない。
 他は全員、屈強な男のみだ。

 柱が男尊女卑な訳ではない。
 それでも大正のこの世に、その意志はまだ根強く残っている。


「あんなに蛍ちゃんも手負いで頑張ってるのに…っ」

「……」

「ぐすん…しのぶちゃん?」


 涙ぐむ蜜璃の前に一歩進み出る。
 すぅと息を吸い込むと、しのぶは片手を口元に添えた。


「彩千代蛍さーん。頑張って下さーい」


 熱い声援を送っていた蜜璃とは似ても似つかない、棒読みにも似た声援。
 それでもまずあり得ないだろうと思っていた者からの呼び掛けに、蛍の耳もその声を拾った。


「この際、呼吸は乱れてもいいです。ただし息継ぎは忘れないで」

「っ…?」

「勝負する相手の顔をじっと見ること。ちゃんと目視して」


 応援というよりは助言に近い。
 しのぶのその言葉を途切れ途切れに拾いながらも、蛍は従った。


「はっ…はぁ…ッ」


 耐えていた呼吸が乱れる。
 荒い息を溢しながら見上げた杏寿郎の、強い双眸(そうぼう)と重なる。


「勝負する相手が誰であるのか、頭で認識するのも大事なことです。名前を刻んで」

「ぇ…っ?」

「胡蝶が何やら面白いことを言い出したな。いいぞ蛍少女! 掛かってこい!」

(や、掛かるも、何も)


 しのぶの言動はいまいち理解できない。
 それでも稀血の残る体に、これ以上相手を負かす力は残っていなかった。


「そして今一番伝えたいことを声に出して下さい」

「!?(話す余裕なんてないのに…っ)」

「早く。きちんと感情を込めて、ですよ」


 容赦なく急かすしのぶに、意を決した蛍の唇がぷるぷると開く。
 歯を食い縛ることで耐えていたというのに、これではもう数秒も保たないだろう。

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