第9章 柱たちと年末年始✔
蜜璃も義勇も負かしてきた相手。
その威圧をも感じられる熱い壁を前にして、蛍は視線を己の拳へと集中させた。
「…始め!」
予兆はなかった。
唐突に手を離し告げた無一郎に、互いの拳からの重力でミシリと空気が呻る。
「っく…!」
「む…!」
細い腕に血管が浮く。
机の上でギリギリとつり合う拳の力。
しかしやがて徐々に圧され始めたのは蛍の方だ。
「上手く力を引き出しているな! しかしまだまだ…ッ!」
「ぅ…く…ッ」
「ありゃ駄目だな。やっぱ煉獄が勝つわ」
「呼吸を使って辛うじて均等を保てている彩千代蛍に対して、発破をかけるだけの余裕がある煉獄とではな…仕方ない」
「そ、そんなことないわ! 頑張って蛍ちゃん! 負けないでぇ!」
「チィ…! 俺に勝った癖に易々と負けんじゃねぇぞ! 腕をへし折る覚悟でやれェ!」
「あらあら。すっかり応援隊ができてしまいましたね」
早々と諦める天元と小芭内に対し、声を張り上げる蜜璃に罵声を飛ばす実弥。
型は違えど、彼らの応援は蛍の耳にも届いた。
「ッ…!」
「む!?」
倒されていた小さな拳が、僅かながらせり上がってくる。
その力に目を見張ると、嬉しそうに杏寿郎は声を上げた。
「まだ力を出せるか! いいぞ全力でこいッ!」
「ふぅ…っふ…!」
爛々と輝く杏寿郎の目と、歯を食い縛り耐える蛍の目。
余裕が見られる杏寿郎とは違い、稀血の影響もあってか耐える蛍の顔は赤く染まっている。
力を張った結果か、ワインの残り香か。理由は定かではないが、眉を八の字に変えて息を零す様は一見して辛そうにも見えた。
その姿には流石に杏寿郎も目を止めた。
稀血が鬼に与える強い影響力は、よく知っていたからだ。
とあれば。
「そろそろ決着をつけさせて貰おう…!」
いつまでも根比べをしていたかったが、長丁場にさせるのはよくないと杏寿郎の腕にも力が入る。
再び押していく杏寿郎の拳が、小さな拳を机の側面ギリギリまで追い込んだ。
「ん、ぅ…ッ」
吹き出る汗。
上気する顔。
それでも尚も力を引き出そうと、小さな口から吐息が紡がれる。