第9章 柱たちと年末年始✔
「お。こういうことに無頓着な時透にしちゃ珍しいな?」
「さっき煉獄さんの手を煩わせてしまったし。借りを作りたくないだけです」
「うむ。時透もすぐに刀を退いてくれて助かった! 蛍少女に危険性がないと判断してくれたんだな!」
「別に…」
ちらりと無一郎の眠たげな目が蛍へと向く。
「今殺すべき対象ではないと思っただけです」
「それでも十分だ」
素っ気無い物言いだったが、それでも杏寿郎には十分だった。
朗らかに笑う杏寿郎には、無一郎も蛍によく向ける小言は発さない。
日頃から不愛想な態度が多いが、無一郎もまた蛍の知らない柱との関係を築いている。
よしと気合いを入れ直した杏寿郎が蛍と向き合った。
「しかし本当にその姿のままでいいのか? 手加減はしないぞ」
「うん。わかってる」
未だに酔いのような感覚は残っている。
この状態で再び体を成人化することは、蛍にとって未知の危険があった。
それならば幼子の姿で勝負する他ない。
「みためはコレでも、だいじょうぶ。ちからのつかいかたをおしえてくれたのはきょうじゅろうだから」
「…そうか」
真っ直ぐに見上げてくる蛍の幼い瞳に、杏寿郎の顔が爛々と輝く。
(お。煉獄の奴、気合い入ったな)
彼のやる気を蛍が押してしまったようだ。
そうとなれば結果は火を見るより明らかだった。
「煉獄が勝つに五銭な」
「ならば俺は煉獄が勝つに十銭だ」
「伊黒、それ賭けになってねぇ」
外野のやり取りには耳も傾けず、蛍は静かに深呼吸を繰り返した。
「ふぅー…ふー…」
意識はまだ少し朦朧としている。
しかし見境がなくなっている訳ではない。
何をすべきかは、わかっている。
「それじゃあ…」
握り合った蛍と杏寿郎の拳の上に、無一郎の手が触れる。
ふ、と最後に微かな息を吐いて、蛍はぴたりと呼吸を止めた。
蜜璃と同理は同じだ。
見た目にはない内なる力を、呼吸によって引き出せばいい。
(相手は杏寿郎だ。余所見なんてすればすぐにやられる)