第9章 柱たちと年末年始✔
「まさか蛍ちゃんが煉獄さんとの一騎打ちにまで勝ち進むなんて…楽しみだわっ」
「そりゃ俺に勝ったんだからな。決勝まで進んで当然だろーよ」
期待に満ち満ちた柱達の視線の中で、杏寿郎がゆっくりと蛍の体を地に下ろす。
「だが勝負の前に一つ提案したいことがある」
「ていあん?」
「うむ」
唐突な案に蛍が頸を傾げれば、きりりと太い眉を上げて杏寿郎は爽やかに笑った。
「蛍少女の為の提案だ!」
「…本当にやんのか? 煉獄」
「無論! 蛍少女の熱い決意を受け取ったんだ、応えずしてなんとする!」
「そういうところが煉獄さんらしさですよね」
「素敵よね、きゅんとするわ♡」
「でもよ…」
再び檻の中へと戻った柱達と鬼一匹。
胸を張り高らかに宣言する杏寿郎に、一人渋い顔をしているのは天元。
その目は、杏寿郎と向き合う形で炬燵に入っている小さな少女に向いていた。
「どう見ても負けるんじゃね、お前」
「…む。」
何枚も座布団を重ねた上に座ることで、ようやく杏寿郎と向き合うことができている。
そんな小さな少女の片腕は、肘を机に乗せて杏寿郎へと向けられていた。
天元の声にむすりとした表情を向けながらも、包帯を巻いていない腕を尚も突き出すようにして向ける。
「結局、腕相撲になるんだな…」
「蛍少女の体の負担を考えれば、腕相撲の方が手押し相撲より手軽ですぐに終わるだろう? 蛍少女もこれでいいな」
「うん」
ぼそりと呟く小芭内の言う通り、杏寿郎と蛍の一騎打ちは腕相撲での力比べとなった。
無理矢理に鬼の本能を叩き起こされ、どうにか自身を喰らうことで静めた蛍の体を気遣った結果だった。
杏寿郎の提案に蛍も返事一つで頷き、今に至る。
「試合は一本勝負。勝っても負けても恨みっこなしだ」
「いいよ」
「じゃあ俺が審判やりますよ。結果は見えてるだろうけど」
小さな手に、わしりと大きな杏寿郎の手が握り重なる。
二つの手を前にしてすっと静かに挙手したのは時透無一郎だ。