第9章 柱たちと年末年始✔
「そうよ、蛍ちゃんは偉いわ! その腕の怪我も手当てしなきゃねっ」
「わたしは、そのうちなおるから。それよりできればあっちのけがをなおしてほしいかな…」
「…あ?」
凄みを利かせる実弥から距離を置くように、顔を逸して蛍が乞う。
その理由は、実弥が心配だからではない。
僅かながらの出血であっても、特殊な彼の稀血は鬼の体に響くからだ。
「そうだな。胡蝶、先に不死川の怪我を診てやってくれないか」
「ほとんど掠り傷でしょうけどね。止血くらいならできますよ」
「ンな面倒なこと…」
「面倒でも手当てを受けることだ。不死川は蛍少女に負けた。とあらば、彼女の指示に従わねばな」
「今回は油断しただけだァ。次回は必ず負かしてやる」
「え…もうこれでけっちゃくついたから、つぎはな」
「あ?」
「だから、つぎはもうしな」
「ァあ?」
「……どんだけけんかしたいの」
「喧嘩じゃねェ。テメェを負かしたいだけだ」
宣戦布告のように、中指を真上に突き立ててくる。
「その力、次は暴走せずに扱えるようになれ。そしたらまたやるぞ」
「ぇぇぇ…」
「うむ! 不死川も蛍少女が気に入ったようだな! 結構結構!」
「いや、あれは、ぜったいきにいってない…」
「そうか?」
必死にコクコクと頷く蛍の主張も虚しく、杏寿郎は至って嬉しそうな顔。
中指を突き立てたまましのぶの治療に向かう実弥に、ようやく蛍の鼻孔を突く稀血の匂いも薄れた。
それでも、まだ酔いを残したように頭はぼうっとする。
(ワインを飲んだ所為も、あるのかな…)
「しかしこの様子では、次の試合はできそうにないか…」
「…ぁ」
このまま勝ち上がり戦なら、次に蛍が当たるのは目の前の杏寿郎となる。
「不調な蛍少女を負かす訳にも…」
「す、するっ」
「む?」
「しあい、する。とちゅうほうきしたくないっ」
ここで放棄してしまえば、望みは叶わない。
思わず炎模様の羽織を掴み切望する蛍に、杏寿郎は目を見張った。
「うむ! いい心掛けだ! その意気込み、しかと受け取った!!」
しかし元より熱い性格の持ち主。
すぐに闘志を露わにしたのだった。